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求人広告商法でクレジットカード会社からの請求を拒否する方法

求人広告に申し込んだ際に、仕事の紹介(あっせん)の条件として高額な商品の購入を迫られたり、高額な登録料(その他保証料や手数料)などを請求させられる悪質商法の態様があります。

これらは一般に「内職商法」や「在宅ワーク商法」、「モニター商法」などと呼ばれますが、総称して「求人広告商法」と呼ばれることもあります。

この求人広告商法に総称される悪質商法においては、その求人の応募に際して購入した商品や支払った登録料(その他保証料や手数料)などの支払い契約をクーリングオフによって一方的に解除(解約)することが可能です(特定商取引法第58条1項)。

なぜなら、商品の購入代金をクレジットカードを利用して支払う場合、その商品の購入契約は「消費者」と「販売業者」の間の”売買契約”となりますが、その商品の代金をクレジットカード会社に立て替えてもらうという契約は「消費者」と「クレジットカード会社」との間における”割賦購入あっせん契約”となり、それぞれ別個の契約となるからです。しかし、このクーリングオフの制度は、あくまでもその求人等を募集した業者(商品を販売した業者や登録料(その他保証料や手数料)の請求をしている業者)に対して契約を解除できるという制度に過ぎませんから、仮にその商品の代金をクレジットカードで支払うことにしている場合にはその契約を解除したことをクレジットカード会社に対抗できないのが原則です。

そして別個の契約である以上、クーリングオフによって求人広告商法を行っている業者との”売買契約”や”登録契約”をクーリングオフ(契約解除)したとしても、そのクーリングオフの効力は”割賦購入あっせん契約”には及びませんし、そもそもクレジットカード会社としては契約が解除されたことなど知りようがありませんから、”割賦購入あっせん契約”に基づいて販売業者の商品代金を立替えてその立て替えた代金を購入者に請求することになります。

では、このような場合、クレジットカード会社からの請求を拒否できないのか、というとそういうわけでもありません。

割賦販売法という法律では、このようにクレジットカードを利用して商品等を購入した場合にその商品の購入契約が何らかの自由で解除(解約)などされたような場合には、その販売業者に対する事由をもってクレジットカード会社に対抗して請求を拒否できるという、いわゆる「抗弁権の接続(抗弁の対抗)」の制度が規定されていますので、この制度を利用すればクレジットカード会社からの請求を拒否することが可能となります。

そこで今回は、この広告求人商法で購入した商品等の契約をクーリングオフした場合にクレジットカード会社に対して行う”抗弁権の接続(抗弁の対抗)”の制度の利用方法などについて考えてみることにいたしましょう。

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抗弁権の接続(抗弁の対抗)とは?

「抗弁権の接続(抗弁の対抗)」とは、商品などの購入者が、商品などの販売業者との間で生じている事由をもって、その代金を立て替えたことを理由に代金の請求をしてくるカード会社(クレジット会社)に対抗することができるという制度のことを言い、割賦販売法の第30条の4や同条の第35条の3の19に規定されています(割賦販売法第30条の4、割賦販売法第35条の3の19)。

【割賦販売法第30条の4】

第1項 購入者(省略)は、(省略)包括信用購入あつせんに係る購入又は受領の方法により購入した商品(省略)の支払分の支払の請求を受けたときは、当該商品(省略)を販売した包括信用購入あつせん関係販売業者(省略)に対して生じている事由をもつて、当該支払の請求をする包括信用購入あつせん業者に対抗することができる。

【割賦販売法第35条の3の19】

第1項 購入者又は役務の提供を受ける者は、個別信用購入あつせん関係販売契約又は個別信用購入あつせん関係役務提供契約に係る第35条の3の8第3号の支払分の支払の請求を受けたときは、当該契約に係る個別信用購入あつせん関係販売業者又は個別信用購入あつせん関係役務提供事業者に対して生じている事由をもつて、当該支払の請求をする個別信用購入あつせん業者に対抗することができる。

前述したように、クレジットカードを利用して商品を購入する場合、「購入者と販売業者」の間における”売買契約”と、「購入者とカード会社」の間における”クレジット契約(割賦購入あっせん契約)”は法律上別個の法律行為となりますから、たとえ「購入者と販売業者」の間に”クーリングオフによって解除(解約)された”という事由が生じていたとしても、その”クーリングオフ”という事由を理由とした『契約を解除したから代金は支払わなければならない義務はない』という”抗弁”は、カード会社(クレジット会社)には通用しません。

しかし、「抗弁権の接続(抗弁の対抗)」の制度を利用すると、「購入者と販売業者」の間における”売買契約”で発生した、その”クーリングオフ(契約解除)した”という事由を理由とする『契約を解除したから代金は払わない』という”抗弁”を、本来は法律上別個の行為である「購入者とカード会社」の間における”クレジット契約(割賦購入あっせん契約)”に”接続”することができるようになります。

”抗弁”を”接続”するとどうなるかというと、クレジットカード会社から代金の請求がなされとしても『契約は解除したから代金は支払いません』という販売業者に対する”抗弁”をクレジットカード会社に対しても主張(接続)することができるようになりますので、その結果としてクレジットカード会社からの代金の請求を拒否することが出来るようになります(※この抗弁権の接続が有効に行われた場合、カード会社(クレジット会社)は利用者の口座からの代金引き落しができなくなります)。

なお、この場合、支払いを拒否されたクレジットカード会社はどうするかというと、通常は立て替えたクレジット代金を販売業者に対して返還するよう請求することになります。

抗弁権の接続(抗弁の対抗)の制度の利用手順

① 販売業者に契約の解除(取消)通知書を発送する

抗弁権の接続(抗弁の対抗)の制度を利用するには、販売業者に対する「代金を支払わない」という”抗弁権”が発生していることが前提となりますので、まずその販売業者に対する”抗弁権”を発生させることが必要となります。

この点、前述したように、「内職商法」や「在宅ワーク商法」、「モニター商法」など「求人広告商法」における求人や仕事のあっせん、モニター契約などに際して商品の購入や登録料(その他保証料や手数料)の支払いを求められた場合には、特定商取引法のクーリングオフ(契約解除)制度を利用して契約を解除することができますから、そのクーリングオフ(契約解除)をすることが”抗弁権”を発生させる方法となります。

クーリングオフによって契約を解除すれば商品の購入契約や登録契約の効力が失われることになりますから、それに伴って発生していた商品代金や登録料(その他保証料や手数料)の支払い義務も消滅しますので「代金(登録料)は支払わない」という抗弁権が発生することになります。

なお、このクーリングオフは販売業者に対して書面で通知する必要がありますが、その点についてはこちらのページで詳細にレポートしていますので参考にしてください。
▶ 仕事紹介の条件として購入させられた商品の契約を解除する方法
▶ 求人・内職に応募して登録料を取られた場合に契約を解除する方法
▶ モニター商法における商品の購入契約をクーリングオフする方法

なお、クーリングオフができないような場合(※クーリングオフ期間の20日間を経過したような場合など)には、民法上の詐欺による取消や錯誤による無効、消費者契約法による契約の取消などを利用して契約を取り消す等などすることによって「契約を取り消したからお金を支払う義務はないぞ!」という”抗弁権”を発生させることを考える必要があります。

② クレジットカード会社に”抗弁権の接続(抗弁の対抗)”の通知書を送付する

上記の①の要領で販売会社(ネット通販会社など)にクーリングオフ(契約解除)や契約取消の通知書を送付したら、今度はクレジットカード会社に対して”抗弁権の接続(抗弁の対抗)”の通知書を送付します。

この”抗弁権の接続(抗弁の対抗)”の通知書をクレジットカード会社に送付することによって、販売業者に対する『契約を解除(取消)したから代金は支払わない!」という”抗弁”を、クレジットカード会社との間のクレジット契約に”接続”することができるようになります。

(※クレジットカード会社からの請求を拒否できるということは、その請求を拒否しても法的に延滞にならないということを意味します)

なお、この抗弁権の接続(抗弁の対抗)の通知書の記載例(ひな型)についてはこちらのページを参考にしてください。

▶ 内職・モニター商法等のカード会社の請求拒否通知書の記載例

③ カード会社(クレジット会社)から”抗弁権の接続(抗弁の対抗)”の根拠となる書面の提出を求められた場合

以上のように、まず①の要領で販売業者(求人広告商法の業者など)にクーリングオフや契約取消の通知書を発送し、②の要領でクレジットカード会社に抗弁権の接続通知書を送付すれば、クレジットカード会社からの請求を合法的に拒否できるようになります。

ただし、クレジットカード会社に抗弁権の接続(抗弁の対抗)通知書を送付した後、クレジットカード会社から「販売会社に代金の支払いを拒絶できることの根拠となる書面を提出してください」と依頼された場合は、①で販売会社に送付したクーリングオフ通知書(または契約取消通知書)をクレジットカード会社にも提出しなければなりません(割賦販売法第30条の4第3項、割賦販売法第35条の3の19第3項)。

【割賦販売法第30条の4】

第1項~第2項 (省略)
第3項 第1項の規定による対抗をする購入者(省略)は、その対抗を受けた包括信用購入あつせん業者からその対抗に係る同項の事由の内容を記載した書面の提出を求められたときは、その書面を提出するよう努めなければならない。
第4項 (省略)

【割賦販売法第35条の3の19】

第1項~第2項 (省略)
第3項 第1項の規定による対抗をする購入者又は役務の提供を受ける者は、その対抗を受けた個別信用購入あつせん業者からその対抗に係る同項の事由の内容を記載した書面の提出を求められたときは、その書面を提出するよう努めなければならない。
第4項 (省略)

これは、クレジットカード会社側としては、商品の購入者と販売業者(求人広告商法の業者など)の間でどのような紛争が発生し、どのような法律上の根拠で抗弁権が発生したのか(どのような事由で契約が解除されたのか)という点が判然としないため、その法律上の根拠を確認しておく必要があるからです。

そのため、抗弁権の接続をした後にクレジットカード会社から書類の提出を求められる場合に備えて、①で販売業者(求人広告商法の業者)に送付するクーリングオフ(契約解除または取消)通知書は普通郵便ではなく内容証明郵便で送付するようにしておき、そのコピー(写し)をクレジットカード会社に提出できるよう準備しておくことが重要となります。

契約解除(取消)通知書の控え(写し)は絶対に捨てたりしないようにしないように注意が必要となりますので注意してください。

※販売業者(求人広告商法の業者)に送付したクーリングオフ通知書(または契約取消通知書)の控えは後日裁判に発展した場合に証拠として使用する可能性があるため自分の手元にも残しておく方が無難です。そのためクレジットカード会社には”写しの写し”※内容証明郵便の控えをコピーしたもの)を提出するようにし、クーリングオフ通知書(又は契約鳥軽視通知書)の控え(写し)の原本は手元に残しておくようにしてください。

抗弁権の接続(抗弁の対抗)の手続きが制限される場合

以上のように、インターネット通販でクレジットカードを利用して商品を購入した場合に、その購入した商品が送られてこない場合には、”抗弁権の接続(抗弁の対抗)”という手続きをとることでクレジット会社からの請求を拒否することが可能となります。

しかし、この”抗弁権の接続(抗弁の対抗)”の手続きには金額による適用除外が設けてあり、クレジットカードの支払いが一括払いや通常の分割払いである場合には商品の価格が40,000円、リボルビング払いの場合には38,000円を超える場合でなければ”抗弁権の接続(抗弁の対抗)”の手続きは利用できないことになっています(割賦販売法施行令第18条および第24条、割賦販売法第30条の4第4項、割賦販売法第35条の3の19第4項)

【割賦販売法第30条の4】

第1項~第3項(省略)
第4項 前3項の規定は、第1項の支払分の支払であって政令で定める金額に満たない支払総額に係るものについては、適用しない。

【割賦販売法施行令第18条】

第1項 法第29条の4第2項において準用する法第30条の4第4項の政令で定める金額は、4万円とする。
第2項 法第29条の4第3項において準用する法第30条の5第1項において準用する法第29条の4第2項において準用する法第30条の4第4項の政令で定める金額は、3万8千円とする。

【割賦販売法第35条の3の19】

第1項~第3項(省略)
第4項 前3項の規定は、第1項の支払分の支払であって政令で定める金額に満たない支払総額に係るものについては、適用しない。

【割賦販売法施行令第24条】

法第35条の3の19第4項の政令で定める金額は、4万円とする。

これは、あまりにも金額の少ない取引にまで前述した”抗弁権の接続(抗弁の対抗)”を認めてしまうと、”抗弁権の接続(抗弁の対抗)”の手続きが比較的小さな取引にまで幅広く利用されることになってしまい、そうなるとクレジットカード会社に多大な事実関係の調査にかかる負担が生じてしまうことになることから、一定の金額を下回る取引については適用を排除したものと考えられています。

そのため、購入した商品がクレジットカードの支払いが一括払いであったり通常の分割払いであるものに関しては4万円、リボルビング払いのものに関しては3万8千円を下回る商品については、上記でご紹介した”抗弁権の接続(抗弁の対抗)”の手続きは使うことができませんので注意が必要となります。

なお、この4万円(リボ払いの場合は3万8千円)を下回る商品をクレジットカード払いで購入した場合にはどのようにすれば良いかというと、クレジットカード会社からの請求は拒むことができないのでいったんクレジットカード会社に支払いをし、そのあとで(またはそれと並行して)商品を販売した販業者(求人広告商法の業者)に対して(又は求人広告商法の業者とクレジットカード会社両方を相手取って)代金の返還請求を行うしかないと思われます。

もっとも、このような場合の代金の返還請求については弁護士または司法書士に相談して裁判などを通じて回収するしかありませんので、そのような場合は早めに弁護士または司法書士に相談に行くことをお勧めいたします。