通勤や通学などで利用する路線バスや出張や旅行などで利用する高速バスなど、日常生活において利用するバス会社のサービスは多岐に渡ります。
これらのバスを運行しているバス会社はそのほとんどが乗客の安全確保のため誠実に業務を遂行していることに間違いはないと思いますが、バス会社の従業員やバスの運転手も人それぞれですので、その従業員やドライバーによっては乗客に対して何らかの損害を与えたり、問題のある行為で迷惑をかけてしまう人もいるのは避けられない事実といえるでしょう。
このように問題のあるドライバーや従業員によってバスの乗客が不利益を受けたり迷惑をこうむった場合には、まずそのバス会社に苦情の連絡を行い被害の弁償や謝罪、あるいは問題行動の改善を求めるのが一般的な対処法となりますが、悪質なバス会社によってはそのような苦情の申入れに誠実に対処しないことも考えられます。
バス会社が利用者からの苦情の申入れに適切に対処しない場合、最終的には弁護士を雇って個別に裁判を提起するしかありませんが、それ以外にも監督官庁である行政機関に申告(苦情の申出)を行い、行政機関から指導や行政処分を出してもらうことによって間接的にバス会社との間に発生したトラブルの解決を図るという手段も存在しています。
そこで今回は、路線バスや高速バスなどバス事業者のサービスを利用してトラブルになった場合に、そのトラブルの解決のため監督官庁にその「苦情の解決の申出」を行う場合の具体的な方法について考えてみることにいたしましょう。
バス会社とのトラブルの解決方法となる「苦情の解決の申出制度」とは
路線バスや高速バス、ツアーバスなど、バス自動車を利用して旅客の運輸を行うバス会社(旅客自動車運送事業者)との間で何らかのトラブルが発生したり、それらのバス事業者の行為により不利益や迷惑を受けている場合には、そのトラブル等に関する苦情を「旅客自動車運送適正化事業実施機関」に申し出ることによって必要な助言を受けたり、その苦情の内容に関する調査やそのトラブルの迅速な処理を求めることが可能です(道路運送法第43条の2ないし同条の4)。
【道路運送法第43条の2】
第1項 国土交通省令で定めるところにより、旅客自動車運送に関する秩序の確立に資することを目的とする一般社団法人又は一般財団法人であつて、次条に規定する事業を適正かつ確実に行うことができると認められるものとして国土交通省令で定めるものを、その申請により、運輸監理部及び運輸支局の管轄区域を勘案して国土交通大臣が定める区域(省略)ごとに、旅客自動車運送適正化事業実施機関(省略)として指定することができる。
第2項(省略)【貨物自動車運送事業者法第43条の3】
第4号 旅客自動車運送事業に関する旅客からの苦情を処理すること。
【貨物自動車運送事業者法第43条の4】
第1項 適正化機関は、旅客から旅客自動車運送事業に関する苦情について解決の申出があったときは、その相談に応じ、申出人に必要な助言をし、当該苦情に係る事情を調査するとともに、当該申出の対象となった旅客自動車運送事業者に対し当該苦情の内容を通知してその迅速な処理を求めなければならない。
第2項 適正化機関は、前項の申出に係る苦情の解決について必要があると認めるときは、当該申出の対象となった旅客自動車運送事業者に対し、文書若しくは口頭による説明又は資料の提出を求めることができる。
第3項 旅客自動車運送事業者は、適正化機関から前項の規定による求めがあったときは、正当な理由がないのに、これを拒んではならない。
第4項(省略)
したがって、路線バスや高速バスなどバス会社(旅客自動車運送事業者)の運行するバスを利用して何らかのトラブルが発生しバス会社に直接苦情を申し入れても誠実な対応を取ってもらえない場合には、この「旅客自動車運送適正化事業実施機関(適正化機関)」への「苦情の解決の申出」の制度を利用することによってトラブルの解決を図ることが出来るということになります。
「旅客自動車運送適正化事業実施機関」とは?
前述したように、バス会社とのトラブルを行政機関に届け出て解決を図る場合には「旅客自動車運送適正化事業実施機関」がその苦情の申出先となります。
この「旅客自動車運送適正化事業実施機関」は、法律(道路運送法)に基づいて国土交通大臣から乗客のバス会社に対する苦情を処理する権限を特別に与えられた公的な機関となりますが、具体的には日本バス協会に加盟する各都道府県に設置された地方バス協会がこれにあたります。
例えば、東京都であれば「東京都バス協会」が、北海道であれば「北海道バス協会」が、大阪府であれば「大阪府バス協会」が、沖縄県であれば「沖縄県バス協会」が国土交通大臣から指定されている「旅客自動車運送適正化事業実施機関」の地方バス協会となります。
地方実施機関への具体的な「苦情の申出」の方法
前述したように、バス会社との間で何らかのトラブルが発生した場合には、「旅客自動車運送適正化事業実施機関」となる各都道府県のバス協会に「苦情の申出」を行うことで助言を求めたりその苦情に関するトラブルの迅速な処理を求めることが可能です。
この適正化機関に対する「苦情の申出」の方法は具体的に定められていないようですので、電話やメールで行っても基本的には特に支障はないものと思われます。
苦情(トラブル)の内容を正確に伝えることが必要となるため一般的には書面を作成して文書の形で申し出ることが多いと思われますが、その場合でも定型の書式が定められているわけではないようですので適宜の申出書を作成して提出しておけば特に問題ないでしょう。
なお、この場合にバス協会に提出する苦情解決の申出書の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。
▶ バス会社への苦情解決をバス協会に申出る場合の申出書の記載例
「苦情の申出」を行う適正化機関は具体的にどの地方の適正化機関になるか?
前述したように、バス会社との間で何らかのトラブルが発生した場合には、「旅客自動車運送適正化事業実施機関」である各都道府県のバス協会に対して電話や文書(書面)など適宜な方法により「苦情の申出」を行うことが可能です。
ところで、前述したように「苦情の申出」の申出先となる「旅客自動車運送適正化事業実施機関」は全国に設置されていますので、実際にバス会社との間にトラブルが生じている場合に具体的にどの地方のバス協会に苦情の申出を行えば良いかが問題となります。
たとえば、奈良県に住民票上の住所があり奈良県内に居住しているバスの利用者が、東京と大阪に本社や営業所のあるバス会社の高速バスを利用してトラブルに遭遇した場合、その苦情は奈良県、大阪府、東京都のどの地方のバス協会に申出ればよいのでしょうか。
この点については法律で明確に定められていないようですが、苦情の申出の相手先となっているバス会社への調査や指導を行うのはその苦情の相手先のバス会社が所在する都道府県のバス協会となりますので、通常はその苦情の相手先のバス会社の所在する都道府県のバス協会が「苦情の申出」の行う場合の申出先になるものと考えられます。
地方実施機関に「苦情の申出」を行った場合の効果
前述したように、バス会社との間で何らかのトラブルが発生した場合には各都道府県に設置されたバス協会(旅客自動車運送適正化事業実施機関)に対して「苦情の解決の申出書」を提出するなど適宜な方法でその「苦情の解決の申出」を行うことにより、必要な助言を求めたりその苦情に関するトラブルの迅速な処理を求めることが可能です。
この「苦情の解決の申出」が行われた場合、「苦情の解決の申出」を受けたバス協会(旅客自動車運送適正化事業実施機関)は、必ずその相談に応じて必要な助言を行わなければなりませんし、またその苦情に関する調査を行い苦情の相手先となっているバス会社に対して苦情の内容を通知し迅速なトラブルの処理をするよう求めなければなりません。
この「相談に応じること」や「必要な助言をすること」「調査をすること」「旅客運送事業者に迅速なトラブル処理を求めること」は道路運送法第43条の4で明確に「…なければならない」と規定されており「旅客自動車運送適正化事業実施機関」として国土交通大臣から指定されたバス協会に課せられた”法律上の義務”と考えられます。
そのため、仮にバス協会に苦情の申出を行ったにもかかわらずそれらの措置が取られないような場合にはそのバス協会は法律に違反していることになり、国土交通大臣の指定の取り消し(道路運送法第43条の6ないし7)などの処分を受けてしまうことになりますので、バス協会によほどの怠慢やバス会社からの不正な賄賂などでもない限り、通常はバス協会に苦情の申出を行うことにより、必要な助言や調査、トラブル解決の迅速な処理などがなされるものと考えられます。