宅急便で小包を配達したり、引っ越し業者に家財道具の運送を委託したり、あるいはネット通販で商品を購入した際に購入した商品を配送してもらう場合など、日常生活では様々なシチュエーションで運送業者のサービスを利用することも多いのではないかと思われます。
〇〇急便や〇〇運送など荷物の運送を行う運送事業者は数多くありますが、そこで働く従業員やドライバーも人それぞれですので中には荷物の扱いが雑だったり運転が荒かったりとモラルに反する人も少なからず存在しているのが現実です。
問題のあるドライバーや従業員によって荷物の運送上のトラブルが発生した場合には、まずその運送会社に苦情の連絡を行い被害の弁償や謝罪を求めるのが一般的な対処法となりますが、悪質な業者によってはそのような苦情の申入れに誠実に対処しないことも考えられます。
このように運送業者が苦情の申入れに適切に対処しない場合にどうすれば良いかというと、最終的には弁護士を雇って裁判をするしかありませんが、それ以外にも監督官庁である行政機関に告発(苦情の申出)を行い、行政機関から指導や行政処分を出してもらうことによって間接的に運送業者の不正行為を改めさせるという手段も存在しています。
そこで今回は、荷物の配送や引っ越しなどで運送業者(宅配便)を利用してトラブルになった場合に監督官庁に告発(苦情の申出)を行う場合の具体的な方法について考えてみることにいたしましょう。
運送業者とのトラブルの解決制度
荷物や商品の宅配業者や引っ越し業者など、貨物の運送を行う業者との間でトラブルが発生した場合には、そのトラブルに関する苦情を「地方貨物自動車運送適正化事業実施機関」に申し出ることによって必要な助言を受けたり、「地方貨物自動車運送適正化事業実施機関」から調査やその苦情の迅速処理を求めることが可能です(貨物自動車運送事業者法第38条1項ないし第39条の2)。
【貨物自動車運送事業者法第38条】
第1項 国土交通大臣は、貨物自動車運送に関する秩序の確立に資することを目的とする一般社団法人又は一般財団法人であって、次条に規定する事業を適正かつ確実に行うことができると認められるものを、その申請により、運輸監理部及び運輸支局の管轄区域を勘案して国土交通大臣が定める区域(省略)に一を限って、地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(以下「地方実施機関」という。)として指定することができる。
第2項(省略)【貨物自動車運送事業者法第39条】
地方実施機関は、その区域において、次に掲げる事業(省略)を行うものとする。
第1号~3号(省略)
第4号 貨物自動車運送事業に関する貨物自動車運送事業者又は荷主からの苦情を処理すること。(以下省略)【貨物自動車運送事業者法第39条の2】
第1項 地方実施機関は、貨物自動車運送事業者又は荷主から貨物自動車運送事業に関する苦情について解決の申出があったときは、その相談に応じ、申出人に必要な助言をし、当該苦情に係る事情を調査するとともに、当該申出の対象となった貨物自動車運送事業者に対し当該苦情の内容を通知してその迅速な処理を求めなければならない。
第2項 地方実施機関は、前項の申出に係る苦情の解決について必要があると認めるときは、当該申出の対象となった貨物自動車運送事業者に対し、文書若しくは口頭による説明又は資料の提出を求めることができる。
第3項 貨物自動車運送事業者は、地方実施機関から前項の規定による求めがあったときは、正当な理由がないのに、これを拒んではならない。
第4項 地方実施機関は、第一項の申出、当該苦情に係る事情及びその解決の結果について貨物自動車運送事業者に周知させなければならない。
したがって、運送業者との間に何らかのトラブルが発生し運送業者に直接苦情を申し入れても誠実な対応を取ってもらえない場合には、この「地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(地方実施機関)」への「苦情の申出」の制度を利用することによってトラブルの解決を図ることが出来るということになります。
「地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(地方実施機関)」とは?
前述したように、運送業者とのトラブルを行政機関に届け出る場合には「地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(地方実施機関)」がその申出先となります。
この運送業者に対する苦情を処理する権限を与えられた機関として国土交通大臣から指定された「地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(地方実施機関)」とは、具体的には全日本トラック協会に加盟する各都道府県に設置された地方トラック協会のことをいいます。
例えば、東京であれば「東京都トラック協会」が、北海道の旭川であれば「旭川地区トラック協会」が、大阪であれば「大阪府トラック協会」が、福岡であれば「福岡県トラック協会」が国土交通大臣から指定されている「地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(地方実施機関)」の地方トラック協会となります。
地方実施機関への具体的な「苦情の申出」の方法
前述したように、運送会社との間で何らかのトラブルが発生した場合には、「地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(地方実施機関)」に「苦情の申出」を行うことで助言を求めたりその苦情に関するトラブルの迅速な処理を求めることが可能です。
この地方実施機関に対する「苦情の申出」の方法は具体的に定められていないようですので、電話やメールで行っても基本的には特に支障はないものと思われます。
苦情(トラブル)の内容を正確に伝えることが必要となるため一般的には書面を作成して文書の形で申し出ることが多いと思われますが、その場合でも定型の書式が定められているわけではないようですので適宜の申出書を作成して提出しておけば特に問題ないでしょう。
なお、この場合に地方トラック協会に提出する苦情の解決の申出に関する申出書の記載例についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。
▶ 運送業者への苦情をトラック協会に申出る場合の申出書の記載例
「苦情の申出」を行う地方実施機関は具体的にどの地方実施機関になるか?
前述したように、運送会社との間で何らかのトラブルが発生した場合には、「地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(地方実施機関)」に対して電話や文書(書面)など適宜な方法により「苦情の申出」を行うことが可能です。
ところで、前述したように「苦情の申出」の申出先となる「地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(地方実施機関)」は全国の都道府県に一つずつ(北海道は8つ)設置されていますので、実際に運送会社との間にトラブルが生じている場合に具体的にどの「地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(地方実施機関)」に申出を行えば良いか、が問題となります。
たとえば、埼玉県に住民票上の住所があり埼玉県内に実際に居住している荷主が、東京都に本社や事業所のある運送業者を利用してその東京の運送業者との間でトラブルが発生した場合には「埼玉県トラック協会」と「東京都トラック協会」のどちらに「苦情の申出」を行えば良いのでしょうか?
この点については法律で明確に定められていないようですが、苦情の申出の相手先となっている運送会社への調査や指導を行うのはそのトラブルの相手先の運送会社が所在する都道府県の地方トラック協会となりますので、通常はそのトラブルの相手先の運送会社の所在する都道府県の地方トラック協会が「苦情の申出」の行う場合の申出先になるものと考えられます。
もっとも、各都道府県の地方トラック協会は全て国土交通大臣の指定を受けた「全国貨物自動車運送適正化事業実施機関」となる「全日本トラック協会」に加盟していますので、トラブルの相手先となっている運送業者の所在地がわからなかったり、全国で営業しているような運送業者であるような場合には、荷主の住所地の地方トラック協会(前述の例でいえば埼玉県トラック協会)に苦情の申出を行っても特に問題ないと思われます。
地方実施機関に「苦情の申出」を行った場合の効果
前述したように、運送会社との間で何らかのトラブルが発生した場合には「地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(地方実施機関)」に対して「苦情の申出書」を提出するなど適宜な方法でその「苦情の申出」を行うことにより、必要な助言を求めたりその苦情に関するトラブルの迅速な処理を求めることが可能です。
この「苦情の申出」が行われた場合、「苦情の申出」を受けた「地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(地方実施機関)」は、必ずその相談に応じて必要な助言を行わなければなりませんし、またその苦情に関する調査を行い苦情の相手先となっている運送業者に対して苦情の内容を通知し迅速なトラブルの処理をするよう運送業者に求めなければなりません。
この「相談に応じること」や「必要な助言をすること」「調査をすること」「運送業者に迅速なトラブル処理を求めること」は貨物自動車運送事業者法の第39条の2で明確に「…なければならない」と規定されており「地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(地方実施機関)」に課せられた”法律上の義務”と考えられます。
そのため、仮に地方トラック協会に苦情の申出を行ったにもかかわらずそれらの措置が取られないような場合にはその地方トラック協会は法律に違反していることになり、国土交通大臣の指定の取り消し(貨物自動車運送事業者法第40条ないし41条)などの処分を受けてしまうことになるでしょうから、地方トラック協会によほどの怠慢や運送業者からの不正な賄賂などでもない限り、通常は地方トラック協会に苦情の申出を行うことにより、必要な助言や調査、トラブル解決の迅速な処理などがなされるものと考えられます。