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消耗品を使用後に契約を取消す場合、いくら支払う義務がある?

訪問販売で購入した商品が消耗品である場合には、購入した商品の一部または全部を使用してしまうとクーリングオフによる契約の解除が制限される場合があります。

▶ 詳細はこちら→健康食品や化粧品などの消耗品はクーリングオフできない?

しかし、このようにクーリングオフによる契約の解除ができない(あるいは一部の商品しかクーリングオフできない)場合であっても、業者側の勧誘時の説明にウソ(不実告知)があったり、意図的に不都合な事実を隠していたり(事実不告知)、「帰ってください」と言ったのに帰らなかったり、「絶対」や「必ず」といった断定的な判断の提供があったり、その他詐欺や脅迫などが認められる場合には、特定商取引法や消費者契約法、民法の規定に基づいて契約を”取り消す”ことが可能です。

▶ 詳細はこちら→訪問販売等でクーリングオフできない場合に契約を取消す方法

このような理由に基づいて契約の「取消」を行うと、契約は初めから無効であったことになり「初めから無かった」のと同じ状態になりますから(民法121条前段)、その商品の代金の支払い義務から逃れることができます。

【民法第121条】

取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。(但書省略)

しかしその反面、業者から受け取った商品については契約を取消したことによって保有しておく法律上の根拠が失われることになりますから、その購入した商品を業者に返還しなければならない義務が生じます(民法第703条)。

【民法第703条】

法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(省略)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

この場合に問題となるのが、購入した商品が消耗品で、その消耗品である商品の一部だけを使用(消費)してしまっている点です。

商品の一部を使用(消費)してしまうと、その「受けた利益」の分だけ業者側に「損失」を与えてしまうことになりますから、その「受けた利益」にあたる部分を民法703条に基づいて業者に返還しなければならなくなるからです。

勿論、使用(消費)してしまった消耗品を元に戻すことは物理的に不可能ですから、実際には契約を取消した後で業者にその商品を返還し、その返還できない使用(消費)した部分については、その使用して受けた利益の部分の代金相当額を”金銭”で業者に支払うことになります。

しかし、消耗品の一部の「受けた利益」といっても、消耗品の一部利用の場合には、たとえば「ボトル1ℓのうち200mℓだけ使った」など、その「受けた利益」の計算が分かり難いものがあるのも現実です。

そこで今回は、一部を使用(消費)した消耗品の訪問販売契約を取り消す場合、業者に返還することが求められる「受けた利益」はどのように計算すれば良いか、という点について考えてみることにいたしましょう。

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契約を取り消した消耗品の一部を使用している場合の「受けた利益」の計算方法

使用(消費)した部分については”受けた利益(現存利益)”だけを返還すれば足りる

前述したとおり、訪問販売で購入した商品(消耗品)の契約を取り消した場合、その商品(消耗品)の一部を使用(消費)している場合には、その使用(消費)したことによって受けた利益を業者に返還しなければなりません。

この点、消耗品の一部を使用(消費)してしまった場合には、その”受けた利益”として具体的に「いくら」業者に支払えば済むのかといった点が問題となりますが、一般的にはその消耗品を使用した限度でその分の価格を支払えば足りると考えられています。

たとえば、価格が1本10,000円の1ℓの栄養ドリンクを訪問販売で10本100,000円で購入し、そのうちの1本を開封して250mℓだけ飲んだ後にこの10本の栄養ドリンクの契約を全て取り消したとします。

この場合には10本のうち1本については開封したうえで250mℓ飲んでしまっているため、「1ℓのうちの250mℓ」については購入者が「利益を受け」販売業者が「損失を受け」ているということになります。

そのため、この場合には開封していない9本はそのまま業者に返還すれば足り、残り1本の使用(消費)した分についてはその残り750mℓのボトルを返還するのに加えて、受けた利益の250mℓに相当する価格である「2,500円」を業者に返還すれば良いということになります。

 

民法703条にいう「受けた利益の返還義務」はあくまでも「受けた利益」について返還する義務を負うのであり、損害賠償義務とは異なる

前述の例で説明したように、1本が1ℓの価格が1000円する飲料を250mℓだけ消費した場合の「受けた利益」は2,500円に過ぎませんから、業者には残りの750mℓと「受けた利益」の分に相当する2,500円を支払えば足りるといことになります。

この場合、返還を受ける業者の立場に立てば「飲みかけの750mℓを返還してもらっても売り物にならないから1ℓ分の10,000円を弁償してもらわないと割に合わない」と考えるのが自然ですから、「250mℓしか飲んでいなくても1ℓ分の10,000円を支払わなければならないのではないか?」と思われるかもしれません。

しかし、この民法703条は「受けた利益」の返還義務を規定している条文であって「損害賠償」を規定した条文ではありませんから、250mℓしか飲んでいないのであればその飲んだ部分だけが「受けた利益」となりますので、250mℓに相当する2,500円だけを業者に支払えばよいということになるのです。

前述したように、業者側の勧誘時の説明にウソ(不実告知)があったり、意図的に不都合な事実を隠していたり(事実不告知)、「帰ってください」と言ったのに帰らなかったり、「絶対」や「必ず」といった断定的な判断の提供があったり、その他詐欺や脅迫などが認められる場合に、特定商取引法や消費者契約法、民法の規定に基づいて契約を”取り消す”場合には、契約を取消す購入者(消費者)の側に損害賠償義務は発生しませんから、民法703条に基づいて実際に「受けた利益」だけを返還すれば良いということになるのです。

なので、仮に業者が「一部消費してしまった商品は売り物にならないからその商品の価格分を全額払え」と言って来たとしても、そのような主張は無視して実際に消費した部分の価格だけを計算して支払えば何ら問題がないということになります。