内職商法や在宅ワーク商法、モニター商法といった求人広告を利用して顧客を募集し、その求人に応募してきた人に商品を販売したり登録料(その他保証料や手数料)の必要となる契約をさせたりする悪質商法があります。
具体的には「この仕事をするにはこの商品を購入することが前提となります」とか「モニターになったらモニター料が支払われますが、モニターに使用する商品は買取が前提となります」などと言って高額な商品を購入させるものや、「この仕事の紹介を受けるには登録料が必要になります」などと言って高額な登録料や手数料などを請求する態様の商法が代表的です。
このような態様の取引は、本当は高額な商品の販売や高額な登録料等が必要となる契約をさせることが目的としてあるにもかかわらず、それを隠して”求人広告”という形で消費者を募集し、”求人”に応募してきただけの消費者に対していわば「不意打ち的」に商品の購入や登録料等の必要な契約を迫るものと言えますから、消費者側としては冷静な精神状態で判断することが難しくなり本来必要でないはずの商品などを購入してしまうなどの経済的な被害をこうむることが少なくありません。
そのため、このような内職商法や在宅ワーク商法、モニター商法といった求人広告商法(業務提供誘引販売取引)によって商品を購入させられたり、登録料等や保証料その他の手数料が必要な契約をさせられてしまった場合には、その契約書を受け取ってから20日が経過しない間であれば消費者側から一方的に契約を解除することができる(いわゆるクーリングオフができる)とされています(特定商取引法第58条1項)。
なお、どのような販売方法がクーリングオフの対象となる業務提供誘引販売取引に該当するかという点について(モニター商法、内職商法、在宅ワーク商法、求人広告商法などの具体例)はこちらのページを
▶ モニター商法・内職商法など業務提供誘因販売取引の要件と具体例
また、その業務提供誘引販売取引の契約をクーリングオフする場合の具体的な方法についてはこちらのページを参考にしてください。
▶ 仕事紹介の条件として購入させられた商品の契約を解除する方法
▶ 求人・内職に応募して登録料を取られた場合に契約を解除する方法
▶ モニター商法における商品の購入契約をクーリングオフする方法
しかし、この求人広告商法(業務提供誘引販売取引)におけるクーリングオフは契約書を受け取ってから20日間にクーリングオフ通知書を発送することが要件となっていますので、契約書を受け取ってから20日が経過した後はクーリングオフ以外の方法で契約を取り消し出来ないか検討する必要が生じてきます。
そこで今回は、内職商法や在宅ワーク商法、モニター商法といった求人広告商法(業務提供誘引販売取引)によって業者と結んでしまった商品の購入契約や仕事紹介のための登録料その他保証料や手数料の支払契約について、契約から20日を経過してしまったためにクーリングオフできなくなった場合にはどのような方法で契約を取り消すことができるのか、という点について考えてみることにいたしましょう。
クーリングオフができない場合に業務提供誘引販売取引の契約を取り消す方法
①「不実告知」または「事実不告知」を理由に取り消す方法
内職商法や在宅ワーク商法、モニター商法といった求人広告商法(以下、このページでは「業務提供誘引販売取引」と言います)によって結んだ契約をクーリングオフの制度によって解除(解約)できない場合にまず考えられる対処方法が、業者側の「不実告知」または「事実不告知」を理由とした契約の取り消しです。
これは特定商取引法という法律の第58条の2に規定されている契約の取消方法で、具体的には業務提供誘引販売取引において業者が求人や仕事の紹介(あっせん)に応募した応募者(消費者)に対して、契約の際に告知すべき事項について「不実のことを告げる行為」や「故意に事実を告げない行為」があった場合には、応募者(消費者)はその商品の購入や登録料(その他保証料や手数料)の支払いに関する契約を取り消すことができるとするものです(特定商取引法第58条の2)。
これは、業者側の説明に”嘘”やがあったり、嘘ではなくても業者側に不都合な事実を故意に隠したような態様がある場合には、それによって消費者が誤った判断をして契約をしてしまうことがあるため、法律で特に取り消しを認めたものになります。
そのため、仮に業務提供誘引販売取引によって商品の購入や登録料等の支払いを契約し20日が経過してしまった場合には、業者側の説明に「不実のことを告げる行為」や「故意に事実を告げない行為」がなかったかという点を確認して、この取消方法が使えないか検討する必要があるでしょう。
なお、具体的にどのような言動があれば「不実のことを告げる行為」や「故意に事実を告げない行為」があったと言えるのか、その具体例についてはこちらのページでレポートしていますので興味がある方はご一読ください。
▶ モニター商法・内職商法等の契約を取り消す際の不実告知の具体例
②「断定的判断の提供」を理由に取り消す方法
内職商法や在宅ワーク商法、モニター商法といった求人広告商法(業務提供誘引販売取引)では、その提供する仕事等などによって得られる利益について業者側が消費者に対して断定的な判断を提供して契約をさせることが禁止されています(特定商取引法第56条第1項2号)。
この「断定的な判断の提供」とは、例えば在宅ワーク商法の場合に「この在宅ワークなら月に〇万円稼ぐことができます」と説明したり、モニター商法の場合に「このモニター会員になれば確実に〇万円は稼げる」と説明する場合などが代表的で、将来不確実である利益について確実に利益が出ると勧誘するような行為をいいます。
【特定商取引法第56条】
第1項 主務大臣は、業務提供誘引販売業を行う者が(省略)次に掲げる行為をした場合において、業務提供誘引販売取引の公正及び業務提供誘引販売取引の相手方の利益が害されるおそれがあると認めるときは、その業務提供誘引販売業を行う者に対し、必要な措置をとるべきことを指示することができる。
1号 (省略)
2号 その業務提供誘引販売業に係る業務提供誘引販売取引につき利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供してその業務提供誘引販売業に係る業務提供誘引販売契約(省略)の締結について勧誘をすること。
また、このような断定的な判断の提供があった場合には、消費者契約法の規定によってその契約を取り消すことが可能とされています(消費者契約法第4条第1項)。
【消費者契約法第4条】
第1項 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
1号 (省略)
2号 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認
そのため、もし業務提供誘引販売取引で契約をしたものの20日を経過してしまったような場合には、業者側の説明にこのような断定的な判断の提供がなかったか、という点をよく思い出してみることが重要です。
仮に業者側の説明に断定的な言い回しの表現があったような場合には、その言い回しがこの断定的判断の提供にあたるか確認して契約を解除できないか検討してみることも必要です。
③「退去させなかったこと」を理由に取り消す方法
内職商法や在宅ワーク商法、モニター商法といった求人広告商法(業務提供誘引販売取引)の場合に限らず、消費者の行う契約においては、業者が消費者契約の勧誘する場面において、消費者が退去する旨の意思を示しているにもかかわらずその場から退去させないようにした事実がある場合には、その消費者はその契約を取り消すことが可能です(消費者契約法第4条第3項2号)。
【消費者契約法第4条】
第1項~2項(省略)
第3項 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
1号 (省略)
2号 当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと。
この「退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと」とは、たとえば在宅ワークの説明会に出席した際に業者から商品を購入するように勧められたため「やっぱり帰ります」と言って退去しようとしたのに出口に立ち塞がれて退去するのを妨害されたというような場合が代表的です。
そのため、業務提供誘引販売取引で商品の購入や登録料の支払いなどの契約をして20日が経ってしまった場合であっても、契約時にこのような退去を妨害するような勧誘をされていないか確認し、そのような退去妨害があった場合にはこの消費者契約法の規定に基づいて取り消しができないか検討してみることも必要です。
④「詐欺」「脅迫」を理由に取り消す方法
民法では、詐欺による意思表示は取り消すことができると規定されています。
【民法第96条】
第1項 詐欺または強迫による意思表示は、取り消すことができる。
第2項~第3項(省略)
この点、業務提供誘引販売取引の契約において消費者を騙すような説明がなされていた場合には”詐欺”と判断できる場合もありますから、業者の勧誘行為に消費者を騙すような説明がなされていなかったか確認してみるのも良いでしょう。
また、民法上の錯誤によって契約の無効を主張できないかという点も検討する必要があります(民法第95条)。
【民法第95条】
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。(但書省略)
この”錯誤”と言う言葉についてはこのサイトで説明するのが難しいですが、簡単に言うと、契約を結ぶ重要部分について本人が気づかないような勘違いをし、その勘違いをもとに商品を購入してしまった場合などのことを言います。
錯誤はかなり難解な判断が必要になるので具体的にどのような場合が”錯誤”に当たるのか説明することはいたしませんが、前述した特定商取引法や消費者契約法、民法の債務不履行や瑕疵担保責任などで契約の解除や取消ができないような場合には、この錯誤ができないか検討する場合もあるかもしれません。
契約にクレジットカードを利用している場合にクレジットカード会社からの請求を拒否する方法
なお、上記のように業務提供誘引販売取引に関する契約を取り消す場合に、その契約の支払いをクレジットカード払いしている場合には、たとえ業務提供誘引販売取引に関する契約を取り消したとしてもそのままではクレジットカード会社からの請求を拒否することはできません。
このような場合にクレジットカード会社からの請求を拒否するためには、”抗弁権の接続(抗弁の対抗)”という手続きが別途必要となりますが、その点についてはこちらのページでレポートしていますので参考にしてください。
▶ 求人広告商法でクレジットカード会社からの請求を拒否する方法
行政機関に告発(被害の申出)を行う場合
内職商法やモニター商法、求人広告商法など業務提供誘引販売取引によって経済的な損害を受けたり、経済的な損失を受けるおそれがある場合には、「主務大臣」に対してその旨を申告(申告・届出)することができます(特定商取引法第60条)。
【特定商取引法第60条】
第1項 何人も、特定商取引の公正及び購入者等の利益が害されるおそれがあると認めるときは、主務大臣に対し、その旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができる。
第2項 主務大臣は、前項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、その申出の内容が事実であると認めるときは、この法律に基づく措置その他適当な措置をとらなければならない。
この点、前述したような業者側の説明に不実告知や事実不告知、断定的な判断の提供がある場合にも、消費者の利益が害される恐れがあるということができますので、そのような事実を主務大臣に訴えることによって行政指導などのペナルティーを与えるよう促すことが可能です。
この主務大臣に対する申出は、書面を提出して行う必要がありますので、業者に何らかの行政処分を与えたいと考えている人は次のページの記載例を参考に、申出書を作成してみてはいかがかと思います。
▶ 業務提供誘引販売取引の不実告知に関する行政処分申出書の記載例
なお、この申出書は主務大臣である”消費者庁長官”に提出するのが原則的な取り扱いとなりますが、それ以外にも各地域を管轄する地域の”経済産業局長”や”都道府県知事”に提出することも可能です。
具体的な申出書の提出先や申出手続についての詳細については、ネット通販詐欺の場合の申出についてレポートしたこちらのページに記載していますので参考にしてください。