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過量販売・次々商法を理由として契約を解除する方法

訪問販売で「通常必要とされる分量を著しく超える商品等の販売」をする取引形態のことを「過料販売」いいます。

このような形態による営業は、消費者が必要としない分量の商品やサービスを一度にまたは複数回に渡って購入させる「過量販売」の他にも、異なる業者が次々と契約をさせる「次々商法」などがあり、悪質商法の一種として多くの被害事例が報告されています。

代表的なものとしては、一人暮らしの高齢者の自宅に訪問し、複数回にわたって次々と高級布団を購入させるものや、リフォームの必要性がないにもかかわらず次々と住宅のリフォーム工事を契約させるものなどの事例が多く報告されているようです。

このような通常必要な分量等を著しく超える商品や工事(サービス)を販売する行為は、断り切れない消費者に対して無理矢理(または騙して)契約を迫るものと考えられることから、特定商取引法でその契約の解除が認められています。

すなわち、特定商取引法という法律では、訪問販売で日常生活で通常必要とされる分量を著しく超える商品やサービスに関する契約を結んだ場合には、契約から1年を経過するまでの間であればその契約を無条件に一方的に解除することができると規定されているのです(特定商取引法第9条の2)。

【特定商取引法第9条の2】

第1項 申込者等は、次に掲げる契約に該当する売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又は売買契約若しくは役務提供契約の解除(省略)を行うことができる(但書省略)
 1号 その日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品若しくは指定権利の売買契約又はその日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を著しく超えて役務の提供を受ける役務提供契約
 2号 当該販売業者又は役務提供事業者が、当該売買契約若しくは役務提供契約に基づく債務を履行することにより申込者等にとって当該売買契約に係る商品若しくは指定権利と同種の商品若しくは指定権利の分量がその日常生活において通常必要とされる分量を著しく超えることとなること若しくは当該役務提供契約に係る役務と同種の役務の提供を受ける回数若しくは期間若しくはその分量がその日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を著しく超えることとなることを知り、又は申込者等にとって当該売買契約に係る商品若しくは指定権利と同種の商品若しくは指定権利の分量がその日常生活において通常必要とされる分量を既に著しく超えていること若しくは当該役務提供契約に係る役務と同種の役務の提供を受ける回数若しくは期間若しくはその分量がその日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を既に著しく超えていることを知りながら、申込みを受け、又は締結した売買契約又は役務提供契約
第2項~第3項 (省略)

そこで今回は、この特定商取引法第9条の2に規定された過量販売における契約の解除の手続きについて、その解除できる要件や解除の方法などについて考えてみることにいたしましょう。

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過量販売に関する契約の解除ができる場合

過量販売に基づく契約の解除ができるのは次の3つの要件を満たす場合に限られます。

  1. 訪問販売による商品またはサービスの購入であること
  2. 日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品またはサービスの購入であること
  3. 契約から1年を経過していないこと

① ”訪問販売”による商品またはサービスの購入であること

過量販売に基づく契約の解除は”訪問販売”による商品やサービスの購入で適用されるものですので、他の取引形態で過料販売(または次々販売)の被害にあったとしてもこの特定商取引法の過料販売に基づく契約の解除の規定は利用することができません。

たとえば、インターネット通販の悪質業者のサイトで次々と高級布団を購入してしまったとしても、インターネット通販は”通信販売”にあたりますから、この過量販売に基づく契約の解除は利用することはできません。

過量販売を理由とした契約の解除はあくまでも”訪問販売”によって商品やサービスを購入した場合にのみ利用できるという点に注意が必要です。

 

② 日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品またはサービスの購入であること

「日常生活で通常必要とされる分量」の判断はケースバイケース

「日常生活で通常必要とされる分量」が具体的にどの程度の分量にあたるかはケースバイケースでの判断となります。

例えば、一人暮らしの老人が高級な羽毛布団を購入させられた事例で考えると、その老人が四畳半一間の狭いアパート住まいで布団1組を敷く程度の部屋の広さしかないのであれば2セット以上購入させられただけでも「通常必要とされる分量を著しく超えた」と判断できるかもしれませんが、仮にこの老人が高級マンションに住んでいて5部屋ほどの部屋があるとすれば、2~3セット購入させられたとしても「来客用に余分に購入した」と考える余地がありますから「通常必要とされる分量を著しく超えた」と判断できない場合もあるかもしれません。

なお、どれくらいの分量が「日常生活で通常必要とされる分量」を超える”過量”にあたるかという点については日本訪問販売協会のサイトで具体的な例示が公開されていますので気になる方は確認してみると良いでしょう。

▶ 過量に当たらない分量の目安 | 公益社団法人日本訪問販売協会公式WEBサイト

同一業者が一度に大量に商品を売り付ける場合も過量販売となる

日常生活で通常必要とされる分量を著しく超える商品(又はサービス)を販売する場合とは、前述したように同一業者が複数回に渡って次々に商品(又はサービス)を販売するだけでなく、同一業者が1度に大量に商品(又はサービス)を販売する場合も含まれます。

たとえば、前述の例で言えば、一人暮らしの老人に数回にわたって高級布団を売り付ける場合は勿論、一度に複数の布団セットを販売する場合も、それが日常生活で通常必要とされる分量を著しく超えている場合には、過量販売として契約を解除することが可能です。

複数業者が入れ替わりに次々と商品を売り付ける場合も過量販売となる

過量販売の被害事例としては、「同一業者が同種の商品を次々と販売する事例(例えば高級布団を次々と売りつけるものなど)」が一般的ですが、これは同一業者が売りつける場合にだけ過量販売となるのではありません。

例えば、Aという業者が宝石を売り付けた後、Bという業者、Cという業者というように次々と別の業者が宝石を購入させたような場合にも、この「過量販売」として契約の解除をすることが可能です。

(※この場合、Cという業者がA・Bという業者が宝石を販売したことを”知りながら”宝石を販売したことが必要となりますが、Cという業者から宝石の購入を迫られた際に「AやBから宝石を購入したんですよ」と伝えていたような場合はCは”通常必要とされる分量を著しく超えていること”を知りながら販売したということになるので「過量販売」を理由に契約の解除をすることができると考えられます)。

このように、別の業者から購入した商品やサービスであっても、他の業者から購入したものと合わせて「通常必要とされる分量」を著しく超えているのであれば過量販売として契約を解除することができますので、複数の業者が連携して次々に商品を売り付ける悪質商法にも対処できるようになっています。

 

③ 契約から1年を経過していないこと

この過量販売(または次々商法)による契約の解除は契約から1年が経過すると行使できなくなりますので、「通常必要とされる分量を既に著しく超えている」という事実がある場合には契約から1年以内に業者に対して解約の通知を行わなければなりません(特定商取引法第9条の2第2項)。

【特定商取引法第9条の2】

第1項 (省略)
第2項 前項の規定による権利は、当該売買契約又は当該役務提供契約の締結の時から1年以内に行使しなければならない。
第3項 (省略)

これは、過量販売がたとえ悪質業者の不正な取引形態であったとしても、永遠に契約解除ができるとしてしまっては将来解約されるかもしれない契約が不安定なまま存続してしまうため1年という期間に限定されたものと考えられます。

なお、通常のクーリングオフ期間が「契約書を受け取ってから8日が経過するまで」と規定されている一方、過量販売の契約の解除は「契約の締結の時から1年以内」と規定されていますので、過量販売の場合は仮に契約書を受け取っていなくても1年が経過すると”過量販売”を理由とした契約の解除はできなくなりますので注意が必要です。

過量販売を理由として契約を解除する具体的な手順

過量販売を理由とした契約の解除は、後日の紛争を避けるため契約解除の意思表示に関する通知書を作成し、内容証明郵便で業者に送付するのが望ましい方法となります。

なお、過量販売を理由とした契約解除通知書(クーリングオフ通知書)の記載例(ひな型)はこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

▶ 過量販売・次々販売を理由とする契約解除通知書の記載例

1年が経過してしまったときの対処法

前述したように、過量販売を理由とした契約の解除は、その契約日から1年以内に行うことが必要です。

この場合、もし契約から1年を経過してしまったときには契約を”過量販売を理由として”解除することはできませんから、”過量販売”以外の理由を根拠として契約を解除したり取り消したりできないか検討する必要があります。

この点、契約の勧誘を受けた際に業者の販売員から”ウソ”の説明を受けたり”意図的に不都合な事実を隠されて”説明を受けたような場合には、不実告知や事実不告知を理由として契約を取消すことが可能です(特定商取引法第9条の3)。

また、業者の説明に「絶対〇〇です!」とか「必ず〇〇できます!」とか「100%〇〇になります!」などと断定的な言い回しがあった場合(断定的判断の提供)にも契約を取消すことができますし(消費者契約法第4条第1項)、勧誘の際に「帰ってください」と告知したのに帰ってもらえなくで仕方なく契約してしまったような場合にも契約を取消すことができます(消費者契約法第4条第3項1号)。

その他にも、業者の勧誘に”詐欺”や”脅迫”となるような言動があった場合にも契約を取消すことができますし(民法第96条)、業者の提供した消費やサービス(シロアリ駆除やリフォーム工事など)の品質に問題がある場合や欠陥がある場合などには債務不履行を理由とした契約の解除や瑕疵担保責任の追及など様々な解決方法があります。

このように、仮に過量販売の契約から1年が経過した場合であっても様々な法律に基づいて契約を解除したり取り消したりすることができますから、悪質な訪問販売の勧誘によって不当な契約をさせられてしまった場合にはこれらの法律に基づいて解決することができないか検討してみる必要があるでしょう。

なお、これらの訪問販売の契約をクーリングオフ(契約解除)できない場合の対処方法についてはこちらのページで詳細に解説していますので参考にしてください。

▶ 訪問販売等でクーリングオフできない場合に契約を取消す方法

 

過量販売を行った業者に行政処分を与えたい場合

訪問販売に限らず、国内における商品やサービスの販売において消費者が経済的な損失を受ける恐れがあるような形態で取引を行っている業者がある場合には、誰でも主務大臣に対して行政処分を行うよう申し出ることが可能です(特定商取引法第60条)。

【特定商取引法第60条】

第1項 何人も、特定商取引の公正及び購入者等の利益が害されるおそれがあると認めるときは、主務大臣に対し、その旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができる。
第2項  主務大臣は、前項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、その申出の内容が事実であると認めるときは、この法律に基づく措置その他適当な措置をとらなければならない。

この点、前述したような過量販売についても、その過量販売によって消費者の利益が害される恐れがある場合には主務大臣は必要な措置をとることができると定められていますから(特定商取引法第7条、特定商取引法施行規則第6条の3)、そのような過量販売を行った業者について行政処分を行うよう、主務大臣に対して申出を行うことができます。

【特定商取引法第7条】

主務大臣は、販売業者又は役務提供事業者が(省略)次に掲げる行為をした場合において、訪問販売に係る取引の公正及び購入者又は役務の提供を受ける者の利益が害されるおそれがあると認めるときは、その販売業者又は役務提供事業者に対し、必要な措置をとるべきことを指示することができる。
 1号 (省略)
 2号 (省略)
 3号 正当な理由がないのに訪問販売に係る売買契約であって日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品の売買契約の締結について勧誘することその他顧客の財産の状況に照らし不適当と認められる行為として主務省令で定めるもの
 4号 (省略)

【特定商取引法施行規則第6条の3】

法第7条第3号の主務省令で定める行為は、次の各号に掲げるものとする。
 1号 正当な理由がないのに訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約の締結であって、日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える指定権利の売買契約の締結又は日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を著しく超える役務の役務提供契約の締結について勧誘すること。
 2号 正当な理由がないのに訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約の締結について、当該売買契約又は役務提供契約に基づく債務を履行することにより顧客にとって当該売買契約に係る商品若しくは指定権利と同種の商品若しくは指定権利の分量がその日常生活において通常必要とされる分量を著しく超えることとなること又は当該役務提供契約に係る役務と同種の役務の提供を受ける回数若しくは期間若しくはその分量がその日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を著しく超えることとなることを知りながら勧誘すること。
 3号 正当な理由がないのに訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約の締結について、当該売買契約に係る商品若しくは指定権利と同種の商品若しくは指定権利の分量がその日常生活において通常必要とされる分量を既に著しく超えていること又は当該役務提供契約に係る役務と同種の役務の提供を受ける回数若しくは期間若しくはその分量がその日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を既に著しく超えていることを知りながら勧誘すること。

特定商取引法第60条の申出は主務大臣である「消費者庁長官」に対して行うのが原則ですが、その業者が特定の地域に限定して営業している場合にはその地域を管轄する「地方経済産業局長」や「都道府県知事」にも行うことが可能です。

なお、この特定商取引法第60条に基づく申出はインターネット通販詐欺に遭った場合の主務大臣への申出とほぼ同じになりますので、申出の方法や具体的な申出書の提出先についてはネット通販詐欺の主務大臣への申出についてレポートしたこちらのページを参考にしてください。

▶ ネット通販詐欺の被害はどこに告発・申告すればいいの?