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過量販売・次々商法を行った業者に行政処分を与える方法

悪質商法の一つに、正当な理由がないにもかかわらず日常生活で通常必要とされる分量を著しく超えている商品やサービス(工事等)を購入させるものがあります。

その態様から”過量販売”と一般に呼ばれる販売手法ですが、その契約が期間を開けて次々と契約させられるものである場合には”次々商法”と呼ばれることもあります。

このような過量販売(次々商法)の被害に遭った場合には、契約から1年を経過しない間であればクーリング通知書(契約解除通知書)を送付することでその契約を解除することができますが、過量販売(次々商法)を行った業者のうち、その過量販売(次々商法)の態様が悪質なものについては、特定商取引法第60条の規定に基づいて主務大臣等に対し行政処分を行うよう求めることも可能です。

そこで今回は、悪質な過量販売(次々商法)を行う業者に対し、特定商取引法第60条の規定に基づく主務大臣等への行政処分の申出を行う場合の具体的な申出方法について解説していくことにいたしましょう。

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特定商取引法第60条に基づく申出制度とは?

訪問販売に限らず、商品やサービス(工事等)を勧誘する業者が違法な行為を行った場合において、購入者等が経済的な損害を受けるおそれがある場合には、誰でも「主務大臣」に対してその違法な行為を行っている業者に適正な措置をとるよう申出(申告・告発)ることができます(特定商取引法第60条第1項)。

【特定商取引法第60条第1項】

何人も、特定商取引の公正及び購入者等の利益が害されるおそれがあると認めるときは、主務大臣に対し、その旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができる。

この申出を受けた主務大臣は調査を行ったうえで必ず行政処分等(営業停止など)の必要な措置をとらなければなりませんので、この申出制度を利用して悪質業者に行政処分を与えるとともに、悪質な業者に社会的制裁を与えたり、悪質な業者を社会の経済活動から締め出すことが可能となります(特定商取引法第60条第2項)。

【特定商取引法第60条第2項】

主務大臣は、前項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、その申出の内容が事実であると認めるときは、この法律に基づく措置その他適当な措置をとらなければならない。

過量販売(次々商法)の業者の行為が違法と判断される場合とは?

前述したように、特定商取引法第60条では、業者について「取引の公正及び購入者等の利益が害されるおそれがある」と認められる場合に限って行政処分を与えるよう申出ることができます。

そのため、過量販売の業者に行政処分を求める場合においても、その販売業者にどのような行為があれば「取引の公正及び購入者等の利益が害されるおそれがある」と認められるのか、という点を考えなければなりません。

この点、過量販売を行う業者にどのような態様があれば主務大臣が行政処分などの必要な措置をとることができるのかということに関しては、特定商取引法第7条第3号と特定商取引法施行規則第6条の3に規定されています(特定商取引法第7条3号、特定商取引法施行規則第6条の3)。

【特定商取引法第7条】

主務大臣は、販売業者又は役務提供事業者が第3条、第3条の2第2項若しくは第4条から第6条までの規定に違反し、又は次に掲げる行為をした場合において、訪問販売に係る取引の公正及び購入者又は役務の提供を受ける者の利益が害されるおそれがあると認めるときは、その販売業者又は役務提供事業者に対し、必要な措置をとるべきことを指示することができる。
 1号~2号 (省略)
 3号 正当な理由がないのに訪問販売に係る売買契約であって日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品の売買契約の締結について勧誘することその他顧客の財産の状況に照らし不適当と認められる行為として主務省令で定めるもの
 4号 (省略)

【特定商取引法施行規則第6条の3】

法第7条第3号の主務省令で定める行為は、次の各号に掲げるものとする。
 1号 正当な理由がないのに訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約の締結であって、日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える指定権利の売買契約の締結又は日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を著しく超える役務の役務提供契約の締結について勧誘すること。
 2号 正当な理由がないのに訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約の締結について、当該売買契約又は役務提供契約に基づく債務を履行することにより顧客にとって当該売買契約に係る商品若しくは指定権利と同種の商品若しくは指定権利の分量がその日常生活において通常必要とされる分量を著しく超えることとなること又は当該役務提供契約に係る役務と同種の役務の提供を受ける回数若しくは期間若しくはその分量がその日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を著しく超えることとなることを知りながら勧誘すること。
 3号 正当な理由がないのに訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約の締結について、当該売買契約に係る商品若しくは指定権利と同種の商品若しくは指定権利の分量がその日常生活において通常必要とされる分量を既に著しく超えていること又は当該役務提供契約に係る役務と同種の役務の提供を受ける回数若しくは期間若しくはその分量がその日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を既に著しく超えていることを知りながら勧誘すること。

上記の条文は法律になれていない人が読むと理解しにくいかもしれませんが、書かれていることは至極簡単で以下の3つの類型に分類することができます。

① 「1回」の契約によって過量となる商品・権利・役務を購入させられた場合

訪問販売業者が正当な理由がないにもかかわらず、「1回」の契約によって日常生活で通常必要とされる分量を著しく超える分量の商品や権利、役務を販売した場合には、その業者は行政処分の対象となります。

たとえば、一人暮らしの人が1回の訪問販売で布団(商品)を2個以上に購入させられたり、1回の訪問販売でエステティックサロンの利用権(権利)を大量に購入させられたり、1回の訪問販売で複数の個所のリフォーム工事(役務)の契約を結ばさせれるような場合が考えられます。

なお、「通常必要とされる分量」の目安については公益社団法人日本訪問販売協会のサイトに掲載されていますのでそちらでご確認ください。

② 「2回以上」の契約によって過量となる商品・権利・役務を購入させられた場合

訪問販売業者が正当な理由がないにもかかわらず、「2回以上(複数回)」の契約によって日常生活で通常必要とされる分量を著しく超える分量の商品や権利、役務を販売した場合にも、その業者は行政処分の対象となります。

たとえば、化粧品の訪問販売を例にとると、化粧品の「通常必要とされる分量」の目安としては1年間に10個が限度となりますので(過量に当たらない分量の目安 | 公益社団法人日本訪問販売協会公式WEBサイト)、1回目の訪問販売で5個の化粧品を販売し、2回目の訪問販売で6個の化粧品を追加販売する場合などが考えられます。

この場合、1回目の販売では目安となる10個に満たないため、その時点ではその業者に行政処分を与えることはできません。

しかし、2回目に6個を販売した時点で目安となる10個を超えたことになりますから、主務大臣に対して行政処分を出すよう申出することが可能となります。

③ 「すでに過量となっている」状態で商品・権利・役務を購入させられた場合

訪問販売業者が、その購入を勧誘する消費者が既に過量となっている商品や工事等を保有していたり契約したりしているにもかかわらず、その過量となっている事実を知りながらなお商品や権利、役務の販売を行った場合には、その業者は行政処分の対象となります。

たとえば、化粧品の「通常必要とされる分量」の目安としては1年間に10個が限度となりますから(過量に当たらない分量の目安 | 公益社団法人日本訪問販売協会公式WEBサイト)、Aという業者がXさんに10本の口紅を売り付けたとしてもAという業者は行政処分の対象とはなりませんが、さらにBという業者が現れてXさんが既に10本購入させられているという事実を知りながらXさんに1本でも口紅を販売した場合には、そのBという業者は行政処分の対象となります。

また、住宅のリフォーム工事は築年数10年以上の住宅で年間1工事が「通常必要とされる分量」の目安となりますから(過量に当たらない分量の目安 | 公益社団法人日本訪問販売協会公式WEBサイト)、1年以内に自宅のリフォーム工事を行っているということを知りながら業者がリフォーム工事の勧誘を行った場合には、その業者は行政処分の対象になります。

このように、「すでに過量となっている」ことを知りながら勧誘を行った場合には、その業者がそれぞれ別の業者であったとしても、いわゆる”次々商法”の業者として行政処分の対象とすることができるのです。

過量販売(次々商法)の業者について特定商取引法第60条に基づく申出を行う手順

前述したように、訪問販売業者が正当な理由がないにもかかわらず、日常生活で通常必要とされる分量を著しく超える分量の商品や権利、役務を販売した場合には、主務大臣に対して特定商取引法第60条に基づく申出を行うことによって、その業者に行政処分を与えるよう求めることが可能です。

この特定商取引法第60条に基づく申出の手続は主務大臣等に申出書を提出して行う必要があります。

① 申出書の作成方法

特定商取引法第60条に基づく申出で使用する申出書は法律で様式が定められています(特定商取引法施行規則第57条第2項)。

なお、過量販売における特定商取引法第60条に基づく申出書の記載例はこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

▶ 過量販売・次々商法の業者に対する行政処分申出書の記載例

② 申出書の名宛人と提出先

1)消費者庁長官

特定商取引法第60条に基づく申出書は法令上”主務大臣”に提出するのが原則的な取り扱いです。

”主務大臣”とは具体的には”消費者庁長官”になりますが、消費者庁長官の自宅宛てに郵送するわけにはいかないので、実務上は名宛人を「消費者庁長官」として作成した申出書を「消費者庁の取引対策課」に提出することになります。

2)地方経済産業局長

前述したように、特定商取引法第60条に基づく申出は消費者庁長官(消費者庁の取引対策課)に提出するのが原則的な取り扱いですが、その対象となる訪問販売業者が特定の地域に限って営業している業者である場合には、その地域を管轄する地方経済産業局の局長に宛てて提出することも可能です。

たとえば、博多に営業所を構える業者が九州地区だけで営業しているような場合には、「九州経済産業局長」に対して申出書を提出し、九州経済産業局から行政処分を出してもらうことが可能となります。

もっとも、この場合も「九州経済産業局長」の自宅に郵送するわけにはいかないので、実務上は名宛人を「九州経済産業局長」として作成した申出書を「九州経済産業局の産業部消費経済課」に提出することになります。

3)都道府県知事

また、その過量販売(次々商法)の違法行為を行っている業者が特定の都道府県でのみ営業を行っている場合には、その都道府県知事に対して申出書を提出することも可能です(特定商取引法施行令第19条第5項)。

たとえば、東京に営業所がある訪問販売業者が東京都内だけで過量販売の勧誘を行っている場合には「東京都知事」に対して申出書を提出し、東京都から行政処分を出してもらうことが可能となります。

もっとも、この場合も「東京都知事」の自宅に郵送するわけにはいかないので、実務上は名宛人を「東京都知事」として作成した申出書を「東京都庁内に設置された特定商取引法を担当する課」に提出することになります。

③ 申出書を提出する具体的な住所

以上のように、特定商取引法第60条に基づく申出書は、「消費者庁長官」「地方経済産業局長」「都道府県知事」を名宛人として作成し、「消費者庁の取引対策課」または「地方経済産業局の産業部消費経済課」あるいは「各都道府県の特定商取引法担当課」に提出することになります。

なお、この提出先となる「消費者庁の取引対策課」「地方経済産業局の産業部消費経済課」「各都道府県の特定商取引法担当課」の具体的な住所についてはこちらのページに掲載していますので参考にしてください。

▶ ネット通販詐欺の被害はどこに告発・申告すればいいの?