インターネットを利用した通信販売の契約では、サイトの見やすい箇所に明瞭にかつ判読しやすいように「返品不可」などと記載されていない限り、商品を受け取った日から起算して8日が経過していない間であれば、購入者は自由に(業者側の承諾なしに)契約を解除して商品を返品することが法律で認められています(特定商取引法第15条の2第1項)。
第1項 通信販売をする場合の商品(省略)の引渡し(省略)を受けた日から起算して八日を経過するまでの間は、その売買契約の申込みの撤回又はその売買契約の解除(省略)を行うことができる。ただし、当該販売業者が申込みの撤回等についての特約を当該広告に表示していた場合(省略)には、この限りでない。
▶ ネット通販でサイトの画像と違う商品が送られてきた場合の対処法
仕事が忙しい人であれば宅配便を開けて中を確認するのは数日後ということもあり得る話ですし、数日経ってよく確認してみると品質がサイトの説明と異なっていることに気が付いたという人も少なからずいるはずです。では、賞品を受け取ってから8日が経過した後に契約を解除したい場合はどのようにすれば良いのでしょうか?
そう考えると、8日という短い期間で契約解除の通知を出すことができるのは極めて少数であるとも思えますので、商品を受け取ってから8日が経過した後にどのような救済方法があるかという点を事前に知っておくことも重要なのではないかと思います。
そこで今回は、インターネット通販サイトで商品を購入した際に、賞品を受け取ってから8日が経過した後に契約を解除(取消)て商品を返品するにはどのような方法があるのか、また具体的にどのような対処を取れば良いのか、といった点について考えてみることにいたしましょう。
債務不履行による契約の解除又は損害賠償請求ができないか検討する
インターネット通販に限らず、商品の売買契約では売主が契約した商品を購入者に交付しない場合には、その商品の購入者は相当な期間を定めて催告を行うことにより契約を解除したり損害賠償を請求することが可能です(民法第541条)。
【民法第541条】
当事者の一方がその債務の履行をしない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
例えば、インターネット通販で購入の申し込みをしたのに業者から商品が送られてこないような場合は、購入者は契約を解除することが可能となります。
また、インターネット通販で商品を購入したものの、送付された商品がサイトに表示されていたものと異なっていたり(例えば”リンゴ”を購入したのに”みかん”が送られてきたり、”白”のワンピースを購入したのに”黒”のワンピースが送られてきた場合や、サイズ違いの物が送られてきた場合など)、サイトに表示されていた説明書きの品質に満たない粗悪品が送られてきた場合(例えば「完全防水」と表示されているのに雨水が漏れてくるバッグなど)には契約を解除したり損害賠償請求をすることが可能となります。
そのため、インターネット通販で購入した商品を受け取ってから8日が経過してしまった場合には、このような商品の品質や性能、外観にサイトに表示されていたものと異なる点がないか確認して契約の解除や損害賠償の請求ができないか検討してみる必要があるでしょう。
瑕疵担保責任の追及ができないか検討する
インターネット通販に限らず、売買契約の目的となる商品に”隠れた瑕疵”があるときは、賞品の購入者はその契約を解除し、または損害賠償を請求することができます(民法570条)。
【民法第570条】
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。(但書省略)
【民法第566条】
売買の目的物が(省略)買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
「隠れた瑕疵」の”瑕疵”とは、その売買の目的となっている商品に何らかの欠陥(社会一般の感覚でその商品が有している性能を有していないような粗悪品を含む)が存在することを言いい、”隠れた”とは買主がその商品を購入する社会一般の注意義務をはたしてもその瑕疵について気付かず、かつ、契約段階でその瑕疵を知らないことに過失がないことを意味します。
たとえば、熱帯魚を購入したらその購入した熱帯魚が病気に感染していたとか、ブーツを購入したら2~3回履いただけで底のゴムが剥がれてしまったとか、刺身包丁を購入したら刃が悪すぎて野菜しか切れなかったというような、契約時に買主が知りようがない欠陥や品質に問題があるような場合が代表的です。
そのため、インターネット通販で商品を購入して商品受け取りから8日が経過してしまった場合には、その商品について欠陥がないか、またその商品が同種の製品と比較して社会一般で前提とされている性能や品質を有しているかをよく確認し、購入する際にその欠陥や品質を見抜けなかったことについて過失はないか検討してみることも必要でしょう。
もし仮に購入した商品に”隠れた瑕疵”が存在している場合には、業者に対して民法570条の瑕疵担保責任を追及して契約の解除や損害賠償の請求などを請求してみるのも解決方法の一つとして有効ではないかと思います。
消費者契約法による取り消しができないか検討する
消費者契約法という法律では、購入者について商品を購入する際における事実誤認や判断の誤認があったり、販売業者の側に重要事項についての事実と異なる告知などをした場合には、購入者は契約を取り消すことが可能と定めています(消費者契約法第4条)。
【消費者契約法第4条】
第1項 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二 物品(省略)その他の当該消費者契約の目的となるものに関し(省略)将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認
第2項 消費者は、事業者が(省略)当該消費者に対してある重要事項(省略)について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(省略)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。(但書省略)
たとえば、インターネット通販のサイトで「和歌山産の”南高梅”です」と表示されていたのに中国産の梅干しが送付されてきた場合とか(※その梅干しが”南高梅”であるという重要事項に事実と異なる表示があったことになる)、「完全防水」と記載されている旅行バッグを購入したのにバッグのつなぎ目から雨がしみてくるとか(※”完全防水”という品質についての重要事項に事実誤認がある)、「絶対にやせる!」と記載されているブラジャーを購入したのに何か月着用しても全く痩せないとか(※業者側が、痩せる痩せないという将来における不確実な事項について「絶対に」と断定的な判断を提供している)いう事実がある場合には、この消費者契約法第4条に基づいて契約の解除をすることが可能となります。
そのため、インターネット通販で商品を購入して商品受け取りから8日が経過してしまった場合には、その商品についてサイトに事実と異なる説明が記載されていなかったかといった点や、将来不確実な事項について断定的な言い回しがなされていなかったかといった点を今一度チェックして見るのも良いのではないかと思います。
もし仮に、そのような事実と異なる表示や断定的な判断が提供されている場合には、消費者契約法第4条に基づいて契約を解除することができないか検討してみることも必要でしょう。
民法上の詐欺による取り消しや錯誤を主張できないか検討する
民法では、詐欺による意思表示は取り消すことができると規定されています。
【民法第96条】
第1項 詐欺または強迫による意思表示は、取り消すことができる。
第2項~第3項(省略)
この点、インターネット通販で商品を購入した場合に業者のサイトに消費者を騙すような表示がなされていた場合には”詐欺”と判断できる場合もありますから、業者の運営するサイトに消費者を騙すような記載がなされていなかったか確認してみるのも良いでしょう。
また、民法上の錯誤によって契約の無効を主張できないかという点も検討する必要があります(民法第95条)。
【民法第95条】
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。(但書省略)
この”錯誤”と言う言葉についてはこのサイトで説明するのが難しいですが、簡単に言うと、契約を結ぶ重要部分について本人が気づかないような勘違いをし、その勘違いをもとに商品を購入してしまった場合などのことを言います。
錯誤はかなり難解な判断が必要になるので具体的にどのような場合が”錯誤”に当たるのか説明することはいたしませんが、前述した特定商取引法や消費者契約法、民法の債務不履行や瑕疵担保責任などで契約の解除や取消ができないような場合には、この錯誤ができないか検討する場合もあるかもしれません。
早めに弁護士または司法書士に相談することが肝要
以上のように、インターネット通販で商品を購入した場合に、商品購入から8日が経過した後であっても、様々な法律を検討して契約の解除や取消を行うことが可能です。
ただし、上記でご紹介した「債務不履行による契約の解除」や「瑕疵担保責任」の追及、「消費者契約法による契約の取消」や民法上の「詐欺」や「錯誤」の主張は法律の専門家でないと判断が難しい場合が多いのが実情です。
素人が下手に「債務不履行」や「瑕疵担保責任」、「消費者契約法による取り消し」を主張してしまうと、後で裁判などに発展した場合に、勝てる裁判も勝てなくなってしまう恐れも出てきますので、なるべく早めに弁護士や司法書士に相談し、適切な対処をしていく必要があると思います。
なお、このようなインターネット通販のトラブルで”行政書士”に相談に行く人もいるかもしれませんが、このような案件で行政書士ができるのは「契約を解除します」といった内容証明郵便を業者に郵送することぐらいです。
業者との間で示談交渉を行ったり、裁判を提起して支払った代金を取り返すなどの行為は、日本国内では「弁護士」または「司法書士」にしかできませんので、このような案件は最初から弁護士または司法書士に相談に行くことをお勧めします。