宅建業者(不動産業者)が土地や建物の売買に関する勧誘、または賃貸物件の勧誘を行う場合には、その勧誘に先立って、その宅建業者の「商号又は名称」「勧誘を行う者の氏名」「勧誘をする目的である旨」の3つの事項を告知することが義務付けられています(宅地建物取引業法第47条の2第3項、宅地建物取引業法施行規則第16条の12第1号ハ)。
【宅地建物取引業法第47条の2】
第1項~第2項(省略)
第3項 宅地建物取引業者等は、前2項に定めるもののほか、宅地建物取引業に係る契約の締結に関する行為又は申込みの撤回若しくは解除の妨げに関する行為であつて、第35条第1項第14号イに規定する宅地建物取引業者の相手方等の利益の保護に欠けるものとして国土交通省令・内閣府令で定めるもの及びその他の宅地建物取引業者の相手方等の利益の保護に欠けるものとして国土交通省令で定めるものをしてはならない。
【宅地建物取引業法施行規則第16条の12】
法第47条の2第3項の国土交通省令・内閣府令及び同項の国土交通省令で定める行為は、次に掲げるものとする。
1号 宅地建物取引業に係る契約の締結の勧誘をするに際し、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をすること。
イ~ロ(省略)
ハ 当該勧誘に先立って宅地建物取引業者の商号又は名称及び当該勧誘を行う者の氏名並びに当該契約の締結について勧誘をする目的である旨を告げずに、勧誘を行うこと。
ニ~へ(省略)
2号~3号(省略)
これは、訪問販売や電話による勧誘の場合だけでなく、宅建業者(不動産業者)の店舗における勧誘の場合にも適用されますから、顧客が不動産屋の店舗に自ら赴いて物件の説明を受けに言った場合にも、その不動産業者の店舗の従業員は、まずその業者の「商号又は名称」「勧誘を行う者の氏名」「勧誘をする目的である旨」の3つの事項を告知しなければならないことになります。
ところで、「勧誘に先立って」とは、具体的に”何時”のことを言うのでしょうか?
「勧誘に先立って」この3つの事項を告知しなければならないとはいっても、例えば顧客が店舗を訪れた場合には、店舗のドアを開けた時点なのか、それとも店内の椅子に腰かけた後なのか、例えば店員があいさつをして世間話をしたあとに上記の3つの事項を告知した場合には法律違反にならないのか、などという点は上記の法律の文章からは容易に判断することはできません。
しかし、「勧誘に先立って」上記の3つの事項を告知しない宅建業者(不動産業者)は法律違反となり行政処分の対象となりますから、そのような悪質業者を見分けるためにも、消費者である我々がこの「勧誘に先立って」とは、具体的に”何時”を指すのか、という点を理解しておくことは非常に重要です。
そこで今回は、宅建業者(不動産業者)が勧誘に先立って「商号又は名称」「勧誘を行う者の氏名」「勧誘をする目的である旨」の3つの事項を告知しなければならない場合の「勧誘に先立って」とは具体的にどの時点を指すのか、という点について考えてみることにいたしましょう。
※なお、業者が宅建業者(不動産業者)ではなく、一般の商品や役務(リフォーム工事やシロアリ駆除など)、権利(エステの利用権やゴルフクラブの利用権など)の訪問販売や電話勧誘販売、キャッチセールスやアポイトメントセールスなどを販売する業者である場合の同様の問題点についてはこちらのページを参考にしてください。
「勧誘に先立って」とは?
前述したように、宅建業者(不動産業者)が宅地や建物、賃貸物件の勧誘を行う場合には、その”勧誘に先立って”「商号又は名称」「勧誘を行う者の氏名」「勧誘をする目的である旨」の3つの事項を告知しなければなりません。
これは、宅建業者(不動産業者)が不動産物件の勧誘をする際に、業者の会社名や勧誘の目的等を隠して勧誘を行うなどすることによって、一般消費者が自身が望まない契約を結ばされたり、強引な勧誘で私生活の平穏を害されるというような苦情やトラブルが頻繁に発生している現状があることから、そのような一般消費者が不動産の勧誘を受けているという認識を明確に持ち得るよう、勧誘に先立って所定の事項を告げなければならないことが義務化されたことによるものです(平成23年9月16日国土動指第26号)。
この点、この「勧誘に先立って」とは具体的に”何時”の時点を指すのかが問題となりますが、この「勧誘に先立って」の意味については、国土交通省が各地方支分部局主管部長に宛てて出している指針にその解釈の要点が記載されています(平成23年9月16日国土動指第26号)。
【国土交通省平成23年9月16日国土動指第26号】
(1) 「勧誘に先立って」について
「勧誘に先立って」とは、契約締結のための勧誘行為を開始する前という意味である。勧誘を行うに当たっては、相手方等が勧誘を受けるか拒否するかを判断する機会を勧誘行為を開始する前に確保することが重要であることから、「勧誘に先立つて」、所定の事項を明確に告げなければならない。具体的には、個々の事例ごとに判断することになるが、一般的には、電話による勧誘(省略)の場合は、相手方等に電話が繋がった時点で告げなければならず、訪問による勧誘(省略)等の場合は相手方等と接触し、会話を開始した時点で告げることになる。また、相手方等が宅地建物取引業者の事務所等を訪れた場合には、相手方等に物件の具体的な内容等について説明を開始する時点で告げる必要がある。
① 宅建業者の店舗における勧誘の場合
一般消費者が宅建業者(不動産業者)の店舗(支店)等を自ら訪れて物件の勧誘を受ける場合における「勧誘に先立って」の時点とは、具体的には宅建業者(不動産業者)が
『物件の具体的な内容等について説明を開始する時点』
と考えられています。
そのため、例えば、ある女子大生が、インターネットのサイトでXという宅建業者が管理するAという賃貸マンションの物件を見つけ、Xという宅建業者の渋谷駅前支店に自ら赴いて物件の説明を受けに行った場合を例にとると、その女子大生がXの渋谷駅前支店の扉を開け、店舗の中に入り、「すみません、ネットのサイトで見つけたAというマンションについて詳しいお話を聞きたいのですが・・・」と告知して、そのXの店員が「Aというマンションでございますね」「こちらにおかけください」「少々お待ちください、えーっと、Aという物件はですね・・・」と言って説明を始めたとすれば、このXという宅建業者は法律違反となり行政処分の対象となります。
この場合、Xという宅建業者(その店員)が『物件の具体的な内容等について説明を開始する時点』とは「少々お待ちください、えーっと、Aという物件はですね・・・」と言って説明を始める時点になりますので、この説明を始める前に前述の3つの事項を女子大生に告知しなければ「勧誘に先立って」告知したことにはなりません。
少なくとも「Aという物件はですね・・・」と言って説明を始める前に「商号又は名称」「勧誘を行う者の氏名」「勧誘をする目的である旨」の3つの事項を告知しなければなりませんから、それを怠っているこのXの店員は法律に違反していることになり、Xという宅建業者は行政処分の対象となります。
そのため、この場合には、Xの店員は「少々お待ちください、えーっと、あ、ありましたこちらの物件ですね」と言ってプリントアウトした物件の見取り図等を差し出す時に、
「それではAという賃貸マンションについて説明させていただきます」
「当社はXという宅地建物取引業者でございます」
「今回担当させていただくのは私、〇〇と申します」
と前述の3点を告知した後でなければ「Aという物件はですね・・・」と説明を始めることができないことになります。
このように、店舗における対面での勧誘の場合は、宅建業者の担当者は『物件の具体的な内容等について説明を開始する時点』より前に「商号又は名称」「勧誘を行う者の氏名」「勧誘をする目的である旨」の3つの事項を告知しなければなりませんので、それを告知せずに勧誘を始める(又は説明を始めた後にこの3つの事項を告知して勧誘を行った)宅建業者は、法令に違反する悪質な業者ということができます。
② 電話による勧誘の場合
宅建業者(不動産業者)が電話を利用した方法によって不動産の勧誘を行う場合には、「商号又は名称」「勧誘を行う者の氏名」「勧誘をする目的である旨」の3つの事項について
『相手方に電話が繋がった時点』
で告知しなければならないと考えられています。
そのため、例えば、とあるサラリーマンの携帯電話にある日突然Xという宅建業者からAという投資用マンションの購入に関する勧誘の電話が掛かってきた場合を例にとると、そのサラリーマンが携帯の通話ボタンを押して「もしもし」と答えた時点ですぐに、電話を掛けてきた宅建業者Xの担当者が『もしもし、今回大阪にAというマンションが建築されましてね、毎月確実に〇万円の家賃収入が得られるお客様にとって大変有益な情報を提供できることになりまして…』などと勧誘を始めた場合には、その宅建業者Xは法律違反となり行政処分の対象となります。
この場合、Xという宅建業者(その担当者)が「今回大阪にAと言うマンションが建築されましてね・・・」と言って冒頭から物件の説明を始めていますので、この説明を始める前に前述の3つの事項を女子大生に告知しなければ「勧誘に先立って」告知したことにはなりません。
少なくともXの担当者が「今回大阪にAと言うマンションが建築されましてね・・・」と言って説明を始める前に「商号又は名称」「勧誘を行う者の氏名」「勧誘をする目的である旨」の3つの事項を告知しなければなりませんから、それを怠っているこのXの担当者は法律に違反していることになり、Xという宅建業者は行政処分の対象となります。
そのため、この場合には、Xの担当者は、サラリーマンが電話に出て「もしもし」と返答した時点ですぐに
『突然の電話で申し訳ございません、わたくし宅建業者Xの販売員をしております〇〇〇〇と申す者でございますが、Aという投資用マンションについて勧誘をさせていただいてもよろしいでしょうか?』
などというように前述した3つの事項について告知しなければ、投資用マンションの説明をすることはできないことになります。
このように、電話による勧誘の場合は、宅建業者の担当者は『相手方等に電話が繋がった時点』ですぐに「商号又は名称」「勧誘を行う者の氏名」「勧誘をする目的である旨」の3つの事項を告知しなければなりませんので、それを告知せずに勧誘を始める(又は説明を始めた後にこの3つの事項を告知して勧誘を行った)宅建業者は、法令に違反する悪質な業者ということができます。
③ 訪問販売の場合
宅建業者(不動産業者)が訪問販売の方法によって不動産の勧誘を行う場合には、「商号又は名称」「勧誘を行う者の氏名」「勧誘をする目的である旨」の3つの事項について
『相手方等と接触し、会話を開始した時点』
で告知しなければならないと考えられています。
そのため、例えば、とあるOLの自宅に、Xという宅建業者の販売員が訪れて、Aという投資用マンションの購入に関する勧誘を始めた場合を例にとると、そのOLがインターホン越しに「どちら様ですか?」と尋ねた時点ですぐに(インターホンがない場合はドアを開けた時点ですぐに)『すみません、今回大阪にAというマンションが建築されましてね、毎月確実に〇万円の家賃収入が得られるお客様にとって大変有益な情報を提供できることになりまして…』などと勧誘を始めた場合には、その宅建業者Xは法律違反となり行政処分の対象となります。
この場合、Xという宅建業者(その担当者)が「今回大阪にAと言うマンションが建築されましてね・・・」と言って冒頭から物件の説明を始めていますので、この説明を始める前に前述の3つの事項をOLに告知しなければ「勧誘に先立って」告知したことにはなりません。
少なくともXの担当者が「今回大阪にAと言うマンションが建築されましてね・・・」と言って説明を始める前に「商号又は名称」「勧誘を行う者の氏名」「勧誘をする目的である旨」の3つの事項を告知しなければなりませんから、それを怠っているこのXの担当者は法律に違反していることになり、Xという宅建業者は行政処分の対象となります。
そのため、この場合には、Xの担当者は、OLがインターホンに出て「どちら様ですか?」と返答した時点ですぐに(インターホンがない場合はドアを開けた時点ですぐに)
『突然の訪問で申し訳ございません、わたくし宅建業者Xの販売員をしております〇〇〇〇と申す者でございますが、Aという投資用マンションについて勧誘をさせていただいてもよろしいでしょうか?』
などというように前述した3つの事項について告知しなければ、投資用マンションの説明をすることはできないことになります。
このように、訪問販売による勧誘の場合は、宅建業者の担当者は『相手方等と接触し、会話を開始した時点』ですぐに「商号又は名称」「勧誘を行う者の氏名」「勧誘をする目的である旨」の3つの事項を告知しなければなりませんので、それを告知せずに勧誘を始める(又は説明を始めた後にこの3つの事項を告知して勧誘を行った)宅建業者は、法令に違反する悪質な業者ということができます。
勧誘に先立って「商号又は名称」「勧誘を行う者の氏名」「勧誘をする目的である旨」の3つの事項を告知しない宅建業者(不動産業者)から勧誘を受けた場合にすべきこと
上記のように、不動産の勧誘を行う宅建業者(不動産業者)は、『その勧誘に先立って』、その宅建業者の「商号又は名称」「勧誘を行う者の氏名」「勧誘をする目的である旨」の3つの事項を告知する義務がありますから、それをせずに勧誘を始める宅建業者(不動産業者)は全て法令に違反する悪質業者と判断して間違いありません。
このような悪質業者から勧誘を受けた場合は、たとえその宅建業者が世間的に名の知れた企業であったとしても、その業者と契約をすべきではないでしょう。
このように法律の規定を守らない業者は、他の法律も守っていない(または苦情が出ない程度の法令違反なら犯しても構わない)と考えている業者と言えますから、後々トラブルが発生する可能性が高いと言えます。
なので、このように『その勧誘に先立って』前述した3つの事項を告知しない業者に遭遇した場合は、すぐに店舗を退出するか、電話を切るか、ドアを閉めるかして一切説明を聞かないようにする方が無難です。
なお、このように『その勧誘に先立って』前述した3つの事項を告知しない業者については法令違反となり行政処分の対象となりますから、監督官庁である都道府県知事に苦情の申入れ又は情報提供の申し出を行い、都道府県から業務停止などの行政処分を出してもらうことが可能です。
そこまですると「”モンスタークレイマー”の仲間入りになるのでは?」と思うかもしれませんが、このような悪質業者を放置しておくと、その後にその業者を利用した顧客が必ず悪質業者のトラブルに巻き込まれ、大きな経済的損失を受けてしまう可能性が高いです。
また、不動産取引における商品(不動産物件)は一般の商品より取引に要する金額が高額になるのが通常ですから、このような悪質業者には積極的に行政処分を出してもらい、市場から退場してもらうのが社会の為めに有益と言えますので、出来る限り監督官庁である都道府県知事に情報提供を行うべきではないかと思います。
なお、実際に都道府県知事に違法業者の情報提供をする場合はこちらのページを参考にしてください。