訪問販売や電話勧誘販売で商品を購入したり、工事の契約を結んだ場合には、契約書を受領してから8日が経過するまでの間であればクーリングオフ通知書を送付することで契約を一方的に解除(解約)することができます(特定商取引法第9条及び第24条)。
このクーリングオフ制度は、訪問販売や電話勧誘販売という形態の取引が消費者に対していわば「不意打ち的」に契約を迫るものであることから、冷静な判断状態で契約の是非を考える時間を消費者側に与えることで消費者を保護することが目的と考えられています。
もっとも、クーリングオフによる契約の解除を無条件に認めてしまうとクーリングオフによって解約される可能性のある契約が不安定な状態のまま存続してしまうことになりますから、クーリングオフを行使できる期間を「契約書を受け取ってから8日間」というように区切って、契約の安定性が確保されるようにしています。
ところで、ここで問題となるのは「契約書を受け取ってから8日」が経過した後に契約を解除したいと思ったような場合です。
何かと忙しい現代社会では「1週間」という期間はあっという間に過ぎ去っていくのがむしろ当たり前ということができますから、「クーリングオフしよう!」と決意した時にはすでに8日が経過していて契約を解除することができなくなってしまった、という人も意外と多いのではないかと思われます。
そこで今回は、クーリングオフができない場合にはどのような方法で契約を解除または取消すことができるのか、という点について考えてみることにいたしましょう。
過量販売(次々商法)の場合は契約を解除できる
訪問販売や電話勧誘販売で商品などを購入し、契約書を受け取ってから8日を経過した場合であっても、その商品等の販売が「過料販売(次々商法)」に該当する場合は契約を解除することが可能です。
過量販売とは、「通常必要とされる分量を著しく超える商品等の販売」のことをいい「次々商法」などと呼ばれることもある悪質商法の一種です。
たとえば、一人暮らしの高齢者の自宅に何度も営業に訪れて複数回にわたって高級布団を購入させるものや、本来はリフォームの必要性がないにもかかわらず次々と住宅のリフォームを契約させるものなどが代表例として挙げられます。
このような通常必要な分量等を著しく超える商品や工事(サービス)を販売する行為は、断り切れない消費者に無理に契約を迫るものと考えられることから、特定商取引法でその契約の解除が認められています。
すなわち、訪問販売や電話勧誘販売で日常生活で通常必要とされる分量を著しく超える商品やサービスに関する契約を結んだ場合には、契約から1年を経過するまでの間であればその契約を無条件に一方的に解除することが可能なのです(特定商取引法第9条の2)。
【特定商取引法第9条の2】
第1項 申込者等は、次に掲げる契約に該当する売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又は売買契約若しくは役務提供契約の解除(省略)を行うことができる(但書省略)
1号 その日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品若しくは指定権利の売買契約又はその日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を著しく超えて役務の提供を受ける役務提供契約
2号 当該販売業者又は役務提供事業者が、当該売買契約若しくは役務提供契約に基づく債務を履行することにより申込者等にとって当該売買契約に係る商品若しくは指定権利と同種の商品若しくは指定権利の分量がその日常生活において通常必要とされる分量を著しく超えることとなること若しくは当該役務提供契約に係る役務と同種の役務の提供を受ける回数若しくは期間若しくはその分量がその日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を著しく超えることとなることを知り、又は申込者等にとって当該売買契約に係る商品若しくは指定権利と同種の商品若しくは指定権利の分量がその日常生活において通常必要とされる分量を既に著しく超えていること若しくは当該役務提供契約に係る役務と同種の役務の提供を受ける回数若しくは期間若しくはその分量がその日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を既に著しく超えていることを知りながら、申込みを受け、又は締結した売買契約又は役務提供契約
第2項 前項の規定による権利は、当該売買契約又は当該役務提供契約の締結の時から1年以内に行使しなければならない。
第3項 (省略)
この過量販売(次々商法)による契約の解除はクーリングオフと同様に無条件に契約を解除することができる権利といえますが、通常のクーリングオフ期間が「契約書を受け取ってから8日が経過するまで」と限定されているのに対して、過量販売の契約の解除は「契約の締結の時から1年以内」と行使期間が1年間あるところが特徴です。
そのため、仮に契約書を受け取って8日が経過した場合であっても、その契約した内容が上記のような過量販売(次々商法)に該当するものである場合には、8日が経過した後も1年以内であればクーリングオフと同様に契約を解除することができるということになります。
なお、過量販売を理由として契約を解除する場合の具体的な手順や注意点などについてはこちらのページを参考にしてください。
不実告知または事実不告知がある場合は取り消すことができる
訪問販売や電話勧誘販売で商品やサービスを購入した場合、その契約の際の業者の説明に「不実告知」や「事実不告知」などウソや虚偽の説明があったためそれの事実があるものと(またはその事実がないものと)誤認して契約を結んでしまったような場合にはその契約を取消すことができます(特定商取引法第9条の3)。
【特定商取引法第9条の3】
第1項 申込者等は、販売業者又は役務提供事業者が訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするに際し次の各号に掲げる行為をしたことにより、当該各号に定める誤認をし、それによって当該売買契約若しくは当該役務提供契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
1号 第6条第1項の規定に違反して不実のことを告げる行為 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
2号 第6条第2項の規定に違反して故意に事実を告げない行為 当該事実が存在しないとの誤認
第2項~3項 (省略)
第4項 第1項の規定による取消権は、追認をすることができる時から6月間行わないときは、時効によって消滅する。当該売買契約又は当該役務提供契約の締結の時から5年を経過したときも、同様とする。
「不実告知」は真実とは異なる説明をすることを、「事実不告知」は意図的にある事実を隠して説明することをいい、このような説明は消費者に誤解を与えて契約をさせることになることから、そのような誤解によって結んだ契約を取消すことができるとして消費者を保護しているのです。
たとえば、「不実告知」の例としては、白アリがいない(又はいるかどうか分からない)にもかかわらず「この家には白アリが住んでいますから駆除しないと危険です」などと嘘の説明をしてシロアリ駆除の契約を結ばさせたり、水道の点検を装って消費者の自宅を訪れ「この水道水は汚染されています」などと虚偽の説明をして浄水器を購入させたりするものが代表的です。
また「事実不告知」の例としては、例えば家屋の部屋数からすれば3基設置すれば十分であるにもかかわらず「この広さの家なら10基は必要です」などと告知して床下換気扇を販売するものや、スポーツジムなどの利用契約で実質的には会員数が施設の利用を著しく困難にする程度に存在しているにもかかわらずその事実を隠して会員契約を結ばさせるものなどが代表的でしょう。
このような「不実告知」や「事実不告知」といった事実が業者側にあった場合には、契約をした消費者は、その契約を取消すことが可能となります。
ただし、この不実告知や事実不告知を理由とした契約の取消は、その事実(不実告知や事実不告知があったこと)を知ったときから6か月を経過したとき、または契約から5年を経過したときは取消権を行使できなくなってしまうので注意が必要です。
仮に業者側の説明に不実告知や事実不告知があった場合には契約から8日が経過している場合でも契約を取消すことができますが、その業者の説明にウソや虚偽の事実があったことを知った時から6か月を経過してしまった場合は取り消すことはできなくなりますし、契約から5年を経過した後に業者がウソや虚偽の説明をしていたことを知ったとしても取り消すことはできませんので、業者の説明にウソ等がなかったという点については早めに確認しておくことが重要となるでしょう。
なお、不実告知や事実不告知を理由として契約を取消す場合の取消通知書の記載例はこちらのページを参考にしてください。
業者の説明に「断定的な判断の提供」があった場合も契約を取り消すことができる
業者側の説明に「断定的な判断の提供」があったときにも、その契約を取消すことが可能です(消費者契約法第4条第1項)。
【消費者契約法第4条】
第1項 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
1号 (省略)
2号 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認
「断定的な判断の提供」とは、本来は将来的に不確定な事実に関して「絶対に〇〇です」とか「必ず〇〇になります」など”絶対”や”必ず”といった断定的な言い回しで確定的な判断を与えるような説明をする場合が代表的ですが、必ずしも「絶対」とか「必ず」といった表現がある必要はなく、「絶対」「必ず」「100%」といった表現でなくても、業者側の言い回しが将来不確定な事実に関して一定の評価を断定するような表現をして消費者を誤解させているような場合は全て「断定的な判断の提供」に該当することになります。
たとえば痩身効果のある下着の販売で「この下着をつければ”絶対に”〇kg痩せます」と説明したり「この下着を着用したら痩せます」と説明するものや、シロアリ駆除のサービスで「この薬剤を使えば”100%”シロアリを駆除できます」もしくは「この薬剤でシロアリを完全に駆除できます」と説明するもの、投資情報の提供サービスで「”必ず”〇万円以上儲かります」と説明したり「この投資情報で〇万円利益が出ます」などと将来的に不確定であるはずの事実について断定する表現で消費者を誤解させる説明をするものなどが代表的です。
このような断定的な言い回しは、本来不確定な将来の事象について誤った判断を消費者に与えることとなるため、そのような断定的な判断の提供によって勧誘することが禁じられているのです。
そのため、仮に訪問販売や電話勧誘販売で商品やサービスを購入した場合においてクーリングオフ期間の8日間が経過してしまった場合には、業者側の説明にこのような「断定的な判断の提供」がなかったかを今一度確認してみる必要があるでしょう。
もしも業者側にそのような断定的な判断の提供があった場合には、たとえ契約から8日が経過した後であっても、この消費者契約法の規定に基づいて契約を取消すことができるのです。
なお、断定的な判断を提供についてはこちらのページも参考にしてください。
▶ 「絶対に」「必ず」と説明を受けた契約は”絶対に”取消せる?
「お引き取りください」と言ったのに業者が帰らなかった場合も契約を取り消すことができる
訪問販売や電話勧誘販売の場合だけに限らず、一般の消費者が結ぶ契約においては、業者が消費者契約の勧誘する場面において、消費者が退去するよう求めているにもかかわらず退去しないで勧誘を継続し契約させたような事実がある場合には、その消費者はその契約を取り消すことが可能です(消費者契約法第4条第3項1号)。
【消費者契約法第4条】
第1項~2項(省略)
第3項 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
1号 当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。
2号 (省略)
「退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しない」とは、例えば訪問販売に訪れた業者に「購入する気はないので帰ってください」と言ったにもかかわらず、それを無視して業者が勧誘を継続する場合などをいいます。
このように消費者側の意思に反して勧誘を続けることは消費者を困惑させて(場合によっては業者に恐怖を感じて)契約を迫ることになることから消費者を保護するために契約の取消を認めているのです。
そのため、契約から8日が経過したためクーリングオフできない場合で、かつ、業者の説明に虚偽の説明や断定的判断がなかったような場合には、この退去を求めても退去しなかった事実がなかったかという点をよく確認してみる必要があります。
もし仮に業者が勧誘の際に退去を求めても退去しなかったような事実がある場合には、この消費者契約法の規定に基づいて契約を取消すことも考えてみるべきでしょう。
「詐欺」「脅迫」があった場合も契約を取消すことができる
民法では、詐欺による意思表示は取り消すことができると規定されています。
【民法第96条】
第1項 詐欺または強迫による意思表示は、取り消すことができる。
第2項~第3項(省略)
この点、訪問販売や電話勧誘販売の契約において消費者を騙すような説明がなされていた場合には”詐欺”と判断できる場合もありますから、業者の勧誘行為に消費者を騙すような説明がなされていなかったか確認してみるのも良いでしょう。
また、民法上の錯誤によって契約の無効を主張できないかという点も検討する必要があります(民法第95条)。
【民法第95条】
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。(但書省略)
この”錯誤”と言う言葉についてはこのサイトで説明するのが難しいですが、簡単に言うと、契約を結ぶ重要部分について本人が気づかないような勘違いをし、その勘違いをもとに商品を購入してしまった場合などのことを言います。
錯誤はかなり難解な判断が必要になるので具体的にどのような場合が”錯誤”に当たるのか説明することはいたしませんが、前述した特定商取引法や消費者契約法、民法の規定で契約の解除や取消ができないような場合には、この錯誤ができないか検討する場合もあるかもしれません。
その他のトラブル解決方法
以上のような方法がクーリングオフできない場合における契約の解除・取消方法となりますが、これら以外にも民法の債務不履行による契約の解除や瑕疵担保責任の追及など、様々なトラブル解決方法が存在します。
もっとも、以上のような解決方法は法律の専門家でないと判断が難しい面がありますので、訪問販売や電話勧誘販売で契約を結んだことに起因するトラブルに遭遇した場合は早めに弁護士または司法書士に相談し、適切な対処を取ることが必要といえるでしょう。
なお、業者側にウソの説明や脅迫や威迫など消費者を困惑させる行為があった場合やその他法律に違反する行為があった場合には、行政機関に行政処分を出すよう促す申出を行うことが可能です。
この場合の申出書の記載例についてはこちらで例示していますので、行政機関に告発した場合は参考にしてください。
▶ 脅迫・威迫を与える訪問販売業者に行政処分を促す申出書の記載例